第29章

白川詩帆の言葉は心からの誘いに聞こえたが、藤堂詩織は分かっていた。以前、白川詩帆から送られてきた招待状を、自分は受け取ってさえいなかったのだ。

藤堂詩織が口を開く前に、隣にいた結城の母が冷ややかに鼻を鳴らした。その声色には、隠そうともしない軽蔑が滲んでいた。「あの子が行って何になるの?一日中台所に張り付いている専業主婦が、芸術の何が分かるっていうのよ。行っても恥をかくだけ。時也に迷惑をかけないでちょうだい」

結城の母の言葉は一本の針のように、藤堂詩織の心を深く突き刺した。

この数年間、結城時也のため、この家のために、かつての夢を諦め、甘んじて家庭に入り、彼の食事や身の回りの世話をし、二人...

ログインして続きを読む