第32章

彼は三十歳ほどだろうか、眉目秀麗で、その眼差しは澄み切っている。絵について語る様は理路整然としていて、実に堂に入ったものだった。

「絵画にとてもお詳しいのですね」藤堂詩織は思わず尋ねていた。

男は笑みを浮かべた。「ほんの少し、かじった程度ですよ」

藤堂詩織は少し気まずそうに手を振った。「いえ、実は私にお話しいただいても無駄なんです。絵のことはさっぱり分からなくて」

「分からなくても構いません」男は振り返り、その視線を彼女の顔に落とす。どこか真剣な色が宿っていた。「この絵は、あなたによく似ていると思いました」

藤堂詩織は一瞬、虚を突かれた。「私に?」

「ええ」男は頷き、誠実な口調で続けた。「どち...

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