第38章

リリーは藤堂詩織より二ヶ月早く入社していたため、社内の大小様々なゴシップにはかなり精通していた。白川詩帆の話題になると、リリーの声にはゴシップ好きらしい興奮が混じった。

「藤堂さん、知らないんですか、この白川詩帆さん。彼女、伝説の人なんですよ。入社した時からいきなりデザイン部長で、現場の仕事なんて一日も経験したことがないんです。この件、当時は社内でもかなり大騒ぎになって、古株の社員たちが揃って不満を漏らしたそうです。結城社長がわざわざ三回も会議を開いて話し合ったとか」

白川詩帆。

その名前は細い針のように、不意に藤堂詩織の心臓を突き刺した。

ウォーターサーバーの紙コップを握る指は、関節...

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