第50章

藤堂詩織は心の中で、これは確かに絶好の機会だと息を呑んだ。

佐伯俊彰の業界での評判はかねてから耳にしていた。能力は抜きん出ており、彼の下で働けば、きっと多くのことを学べるだろう。

青城市が傍らでくすりと笑った。「佐伯社長の会社はB市では金の看板ですよ。当年、どれだけの人が頭を下げてでも入りたがったことか」

彼は藤堂詩織に励ますような視線を送った。「この機会は本当に得難い。よく考えるべきだ」

藤堂詩織はワイングラスを握る指に力を込めた。

行きたくないわけではない。ただ、どうあれ自分は結城グループの社員だ。こんな風に、意見が合わないからといって辞めてしまうのは、筋が通らない。

「私……...

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