第53章

藤堂詩織は静かに彼女を見つめていた。

怒りで紅潮しながらも、なおどこか傲岸な雰囲気を失わず、少しも歪んだ醜さを見せない、その華やかな顔を。

七年間の結婚生活で募った酸い思いが、この瞬間、跡形もなく消え去り、ただ氷のような静けさだけが残った。

「白川詩帆」藤堂詩織の声は軽やかだったが、はっきりと彼女の言葉を遮った。「私が頼りにしているのは、この手にある確かな実力です。どこかの男の寵愛なんかじゃありません」

そう言うと、彼女は白川詩帆を避けて、まっすぐクロークへと向かった。

預けていたハンドバッグを受け取る。ベルベットの感触がひやりと冷たかった。

煌びやかな光に満ちたホテルの玄関を出る...

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