第61章

藤堂詩織は彼の手からその報告書を抜き取り、重くも軽くもない手つきで実験台の上に広げた。

「午後二時、会議室。スケジュール、組んでおいて」

彼女は無菌手袋を外すと、それを無造作に黄色い医療廃棄物容器へと放り込んだ。

「これ以上、誰かが陰でごちゃごちゃ言ってるのが聞こえてきたら……」

彼女は言葉を最後まで言わなかった。

そして踵を返し、ハイヒールの地面を叩く音が遠ざかっていく。ドアが背後で閉まり、カチャリという微かな音だけが残された。

実験室に、再び空気が流れ始める。

鈴木明は、肺の中の淀んだ空気をすべて吐き出すかのように、長々と息を吐いた。

彼は手を伸ばしてその報告書を手に取り、...

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