第67章

ロールスロイスの後部座席で、結城時也は目を閉じて精神を集中させていた。先ほどの白川詩帆の言葉がまだ耳に残っている。

姉は成績も平凡で、かろうじて卒業しただけ……考えれば考えるほど、藤堂詩織という女の取り柄のなさが際立って感じられた。

時折、家にいる愛らしい双子のことを思い出し、子供たちが母親を恋しがるような目つきをすることも頭をよぎるが、それでも藤堂詩織に助け舟を出す気は毛頭なかった。

場違いなタイミングで携帯が震え、画面に「佐伯俊彰」の三文字が躍った。

結城時也はやや苛立ちながら電話に出る。

電話の向こうから、佐伯俊彰の熱意のこもった声が溢れんばかりに聞こえてきた。「結城社長!今夜...

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