第76章

結城時也が寝室に戻ったのは、深夜のことだった。

藤堂詩織の姿を認めると、彼はわずかに足を止め、淡々とした声で言った。「何か用か」

藤堂詩織も遠回しな言い方をするつもりはなく、単刀直入に切り出した。「明日の夜、盛世でチャリティーオークションが開かれます……」

結城時也は無造作にネクタイを緩め、ゆっくりとカフスを外しながら、彼女に視線を向けた。「行きたいのか」

藤堂詩織はわずかに虚を突かれた。「ええ」

「ん」

結城時也は冷淡に相槌を打ち、着替えを持って浴室へ向かった。

彼が承諾したのだと藤堂詩織には分かったが、あまりにあっさりしているので、かえって信じがたい気持ちになった。

だが、...

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