第81章

「はい」結城時也は応じたが、その口調はどこか従順に聞こえた。

彼は僅かに手を上げ、淡い笑みを浮かべて藤堂詩織を見つめる。「藤堂部長、どうぞ」

柏木氏は思案顔で二人を一瞥した。「お二人はお知り合いかね?」

結城時也:「ええ、知っています」

藤堂詩織:「存じ上げません」

男女二つの声が同時に響いたが、返ってきた答えは異なるものだった。

庭にいた者たちの表情は様々だ。

今は春とはいえ、夜の庭には木戸を通り抜けてくる寒風が微かに感じられ、骨身に染みる。

女中は道中の戸をすべて閉め、恭しく傍らに控えていた。

結城時也が淡々と説明する。「藤堂部長は神経科学研究所の総顧問で、仕事で時折お会...

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