第83章

まあいい。何かあれば、林美薇の方から連絡してくるはずだ。

アパートに戻り、藤堂詩織は木箱をしまい込むと、パソコンを開いて論文の執筆に取り掛かった。

これは金田風雅から課された課題で、講演会の前に癌治療に関する論文を一本提出するように言われていたのだ。

以前は全く糸口が掴めず、手つかずのままだった。

ここ数日、多くの資料に目を通し、ようやくどこから手をつければいいか見当がついたところだった。

その時、結城沙耶から突然電話がかかってきた。

「ママ、今日は帰ってくるの?」

藤堂詩織は資料を整理しながら答えた。「ママは今日は帰らないわ。弟と早く休みなさいね。二、三日したら、ママの仕事が落...

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