第84章

祖母を見かけたばかりで、藤堂詩織は確かに心が動いたことを認めた。

祖母と少し話がしたい。元気にしているか、近頃体の調子はどうか、と尋ねたかった。

だが、言葉が口をついて出そうになった瞬間、藤堂詩織はまたそれを呑み込んだ。

白川家は今、結城時也の権力を借りて事業をますます拡大させている。今日ロイヤルホテルで出くわしたのも、もしかしたら家族揃っての特別な会食なのかもしれない。

なにしろ、白川詩帆が海外から帰国してまだ間もないのだから。

家族の集まりに、彼女のような部外者が邪魔をしに行くのは適切ではない。

あと数日もすれば祖母の誕生日だ。その時に会う方がふさわしいだろう。

藤堂詩織は心...

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