第87章

藤堂詩織は目を伏せた。「先生、私が間違っていたことはわかっています」

かつての彼女は、結城時也のために自分自身を、そして自分の夢を諦めるべきではなかったのだ。

金田風雅の表情が一瞬和らぎ、引き出しからとっくに用意してあったであろう金の箔押しが施された招待状を取り出した。

「これは二日後の私の講演会の招待状だ。君は少し早めに来て、秦野弥と一緒にしっかりと学ぶといい」

「それからこの古書も。目を通しておくと勉強になるだろう」

目の前に置かれた漢方医の古書を見て、藤堂詩織はひどく戸惑った。「ですが、漢方医学の理論は私の研究分野とは異なります」

彼女が得意とするのは実験研究であり、漢方医の処方や薬物の...

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