第88章

結城時也は一言も発しない。

しかし、その眼差しに宿る嫌悪感は、彼女の嘘が稚拙だと、その感情のすべてが嘲笑っていた。金田先生まで巻き込んで芝居を打つとは、挙句の果てには癌だとでも思わせるつもりか、と。

結城時也はこの説明を信じていない。ましてや彼女自身を信じてなどいない。だから、どれほど真実味のある事実を目の前に突きつけられようと、すべてが嘘としか映らないのだ。

藤堂詩織は疲れてしまい、もうこれ以上説明する気力もなかった。

「では、結城社長がお好きに解釈なさってください。私からは何も申し上げることはありません」

彼女は背を向け、結城時也とこれ以上言葉を交わすまいと歩き出した。

交わす...

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