第34章 命の恩人

灰原仁司が何度か呼んでも、杉浦杏奈は眠ったままだった。

彼は杉浦杏奈のほうへ歩み寄り、最後にはしゃがみ込む。小さな声で何度か呼びかけても、やはり反応はない。

よほど疲れ切っているのだろう。頬には血の跡があり、目尻には涙の粒まで残っていた。

灰原仁司は息を深く吸い込む。さっき彼女が口にした言葉が、頭から離れない。いったい何を意味していたのか。

「……ありがとう」

不意に、杉浦杏奈が手を伸ばし、彼の袖を掴んだ。

灰原仁司は眉をひそめて彼女を見る。起きているときと眠っているときで、まるで別人だ。

目を覚ましているときの彼女は刃物みたいで、いつでも誰かを斬り伏せられそうな危うさがある。...

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