第37章チェイス

山道は、予想していた以上にぬかるんでいて、歩きづらかった。

リリーが立ち上がったその瞬間、足元の岩がぐらりと動き、体がよろけて横倒しになった。泥の中に突っ込む――そう思った刹那、強い腕が腰に回り、間一髪で彼女を支えた。

「おっと、危ない!」デイビッドの声が、耳元すぐで響いた。

その一瞬が、永遠みたいに引き伸ばされた。リリーはデイビッドの腕の力強さを、雨と松の匂いを、そして耳にかかる吐息の温かさを、はっきりと感じていた。

胸が、どくんと跳ねる。

「ありがとう」体勢を立て直すと、デイビッドはすぐに手を離した。だが腰に触れていた指の感触だけが、いつまでも残っている。撮影クルーはその瞬間を完...

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