第1章

十一月の白鷺市はいつも陰鬱で、今の私の粉々に砕け散った心みたいだった。

私は、たった三十平米の、狭く、そしてどこか朽ちかけたアパートの一室で、膝を抱え、体を丸めていた。薄手の長袖の下、腕に刻まれた醜い傷跡が、まるで今も生きているかのようにズキズキと疼く。

八年の歳月が流れたというのに、その痛みは決して癒えることはなく、私の心に深く刻まれた傷と、まるで同じように、今も鮮烈な存在感を放っていた。この部屋の冷たい空気のように、私の内側も凍てついていた。

「また、この日が来たんだね……」壁に飾られた詩織祖母の写真を眺めながら、紙やすりでこすったようなかすれた声で呟いた。「おばあちゃん、私は今もあの頃と同じ臆病者だよ」

二〇二五年、十一月二十三日。丸八年。

目を閉じると、地獄のようなあの夜が、瞬く間に私を飲み込んでいく――

二〇一七年、十一月二十三日、午後十時四十七分。

私は一人で家路を歩いていた。リュックには、さっき買ってきたばかりのチョコチップクッキーの材料が入っている。今日、学校でクラスメイトたちが感謝祭に家族へのプレゼントを準備する話をしているのを聞いて、急におばあちゃんのために何か手作りのものを贈りたくなったのだ。

お菓子作りは得意じゃなかったけれど、おばあちゃんが教えてくれた秘密のレシピ、愛情を込めて作る、あのレシピを試してみたかった。

白鷺市の感謝祭前夜は、街全体が呼吸を合わせるかのように、ひときわ活気に満ちていた。遠くのコミュニティセンターからは、祝賀イベントの陽気な音楽が、夜風に乗って、甘く濃厚な金木犀の香りと溶け合いながら流れてくる。

その心地良い喧騒を背に、私は白鷺桜苑マンションへと急いだ。心の中では、手作りのクッキーを差し出した時、おばあちゃんの顔いっぱいに広がるだろう、あの驚きと喜びの表情を何度も思い描いていた。その想像が、私の足取りをさらに軽くする。

それが、おばあちゃんに会える最後の夜になるなんて、その時の私は知る由もなかった。

マンションの正面玄関に入る。エレベーターはメンテナンス中で、階段を使わなければならなかった。突然、廊下の電気が消えた。

スイッチに手を伸ばそうとした瞬間、背後から誰かに腕を掴まれた。大きな手が私の口を塞ぐ。

「騒ぐな」。血も凍るような声だった。

真壁蓮司。ここの大家だ。

必死にもがくと、背負っていたリュックが地面に落ち、教科書が散らばった。男は私を階段の暗がりへと引きずり込んでいく。

「てめえ、外で男とイチャついてるのを知らねえとでも思ったか」蓮司の息は熱く、吐き気がするほど臭かった。「そんなに男が欲しいなら、おじさんが可愛がってやるよ」

私は力の限り男の手に噛みついた。途端に、顔面に強烈な平手打ちが飛んでくる。

頬が焼けるように痛い。制服が引き裂かれる音が、静かな廊下にやけに鋭く響いた。

必死に叫んだけれど、声は完全に彼の手のひらにかき消される。マンションの住人はみんなチャリティーイベントに行っていて、誰も聞いてはくれない。

男がスカートに手をかけた、その時。階上から足音が響いた。

「楓花? 楓花、帰ってるのかい?」おばあちゃんの声!

蓮司の動きが止まり、その目に焦りの色が浮かんだ。

私は必死にもがき、声を出そうとした。

「やれやれ、まだ帰ってこないのかねえ」おばあちゃんの声が近づいてくる。「あの子は、本当に心配をかけるんだから」

蓮司は舌打ちをすると、私を階段下の物置部屋に引きずり込んだ。

おばあちゃんが、あのラベンダー色のカーディガンを着て、懐中電灯を片手に廊下で私を探しているのが見えた。光の筋が何度も私たちの隠れている場所を通り過ぎたが、気づかれはしない。

暗闇の中で、蓮司は再び私を組み伏せた。魂が引き裂かれるような感覚だった。

とうとう、私は舌を噛み切り、悲痛な叫び声を上げた。

「助けて! おばあちゃん! 助けて!」

おばあちゃんの懐中電灯の光が、即座にこちらを向いた。

「楓花!」おばあちゃんは駆け寄ってくると、その華奢な体で蓮司に体当たりした。「この子を離しなさい!」

蓮司は彼女を乱暴に突き飛ばした。おばあちゃんは階段に強く体を打ちつけ、後頭部がコンクリートの床に叩きつけられる鈍い音がした。

真っ白な髪の下から、血が滲み出てくるのが見えた。

「おばあちゃん!」私は気でも狂ったかのように、おばあちゃんに駆け寄った。

蓮司は、地面に落ちていた私の果物ナイフ、おばあちゃんのためにリンゴを剥いてあげるための、あの小さなナイフを拾い上げた。

「見られたからには、容赦しねえぞ」。その目の光は、完全に正気を失っていた。

おばあちゃんは必死に身を起こし、震える手で私を抱きしめた。

「楓花、怖がらなくていいのよ……おばあちゃんが守ってあげるから……」

蓮司がナイフを振り上げ、私たちに向かって突きかかってきた。

おばあちゃんは、その六十七歳の体で私を庇った。刃が、その胸を貫いた。

ラベンダー色のカーディガンが、瞬く間に赤く染まっていく。

「おばあちゃん! やめて!」私はヒステリックに叫んだ。

蓮司がナイフを引き抜き、再び振りかぶろうとする。私はその柄を掴んだ。刃が私の手のひらを切り裂き、腕に一生癒えることのないこの傷跡を残した。

もみ合う中で、私たちはナイフを奪い合った。そのナイフが、争いの最中に手から滑り、おばあちゃんの首筋を捉えた。

血。あたり一面の、血。

おばあちゃんは最後の力を振り絞り、私の顔に触れた。

「楓花……生きるのよ……おばあちゃんの分まで……生きて……」

その目は次第に焦点を失い、手は力なく垂れ下がった。

遠くでようやくパトカーのサイレンが鳴り響いたが、すべてが手遅れだった。

はっと目を覚ますと、顔が涙で濡れていることに気づいた。八年が経っても、この悪夢は毎日私を苛み続けていた。PTSD、不安障害、うつ病、ありとあらゆる治療を試したが、自分の臆病さを決して許すことはできなかった。

「全部、私のせい……」私は声を詰まらせた。「私がもっと早く帰っていれば、もっと勇敢だったら、おばあちゃんを守れたなら……」

もうこんな生き方は続けられない。この生き地獄を終わらせなければ。

震える足で寝室へ向かい、八年間触れることのできなかった段ボール箱。おばあちゃんの遺品を引きずり出した。

「二〇一七年十一月二十三日 - マンションセキュリティバックアップ」と書かれた保存装置を見た時、私の心臓はほとんど止まりそうになった。

「防犯カメラの映像……」私は自分に言い聞かせるように呟いた。「おばあちゃんの、最期の瞬間」

震える指で再生ボタンにカーソルを合わせながら、その装置をパソコンに接続した。

「見るべきじゃない……でも、見なくちゃ。おばあちゃんに、謝らなくちゃ」

画面には、白鷺桜苑マンション階下の防犯カメラ映像が映し出された。タイムスタンプは「二〇一七年十一月二十三日 午後三時四十七分」を示している。

映像の中のおばあちゃんは、手作りのチョコチップクッキーを近所の人たちに配っていた。その笑顔はとても温かく、とても優しかった。

「これはうちの家のレシピなの。愛情を込めて作ったクッキーは、いつだって一番甘いのよ」

決壊したダムのように、涙が溢れ出した。これが私のおばあちゃんだ――人生最後の日にさえ、彼女は自分のやり方で愛と温かさを広めていた。

「おばあちゃん、会いたいよ……」私は手を伸ばし、画面の中の彼女の顔をそっと撫でた。「もう一度会って、大好きだって伝えたい。私があなたを守るって、伝えたい……」

その時、奇妙なことが起こった。

画面が青い光を放ち始め、映像が激しく揺れ動いた。画面から強烈な吸引力が湧き起こり、私は自分が渦の中に引きずり込まれていくのを感じた。

「何これ!?」恐怖に目を見開くと、自分の指が画面に吸い込まれていくのが見えた!

いや、吸い込まれるんじゃない。これは……貫通している! 私の指先が、実際に画面の表面を通り抜け、映像の中の世界に触れている!

強烈なめまいに襲われ、部屋全体が回転を始めた。抗いがたい力に体が引かれ、画面の中の世界へと落ちていくのを感じた。

奇妙なブーンという音が耳を満たし、周囲の現実世界が溶け始めていく。最後に一つだけ、鮮明な思考が頭をよぎった。

「もし、あの日に戻れたら……絶対に、おばあちゃんを救う」

そして、すべてが暗転した。

ドクン――ドクン――ドクン――

心臓が、地鳴りのように耳の奥で轟き、全身の血潮が逆流するかのようだった。私は、白鷺桜苑マンションの足元に、かろうじて体重を支えている状態だった。

足元は覚束なく、視界は激しく歪む。時間の奔流に揉みくちゃにされたかのような、目眩にも似た感覚が、まだ私の意識を掻き乱し、世界そのものが高速で回転しているように感じられた。

恐る恐る、自分の身体を見下ろす。そこには、記憶の中の十七歳の私。着慣れたはずの制服は、妙に真新しく感じられ、肩には見慣れたリュックが、いつものように収まっている。

震える指で携帯電話を操作し、画面に浮かび上がった文字を凝視する。「二〇一七年十一月二十三日 午後十二時二十分」。その日付と時刻が、冷たい現実として私の胸に突き刺さる。

これは夢じゃない……本当に、本当に、あの頃に戻ったんだ!

震える両手をゆっくりと持ち上げ、その滑らかな肌を凝視する。左腕に深く刻まれていたはずの、あの忌まわしい傷跡は、どこにも見当たらない。そこにあるのは、瑞々しい少女の、無垢な肉体だけだった。

「信じられない……これは、奇跡だ……本当に、タイムトラベルしたんだ!」

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