第29章 彼女への見方を改める

すれ違った刹那、原野勇斗は彼女の纏う匂いをはっきりと嗅ぎ取った。さっぱりした石鹸の香りに、運動のあと特有のかすかな汗の気配が混じっている。

何か言わなきゃ――そう思って口を開こうとしたのに、喉がからからに乾いて、言葉が一粒も転がり出てこない。

菅田美波の後ろ姿が廊下の突き当たりへ溶けるまで見送って、ようやく彼はゆっくりと背を起こした。顔には、これまでにない茫然と――自分でも説明できない喪失感が貼りついていた。

菅田美波が教室の扉を押し開ける。

さっきまでざわついていた教室は、彼女が現れた途端、作り物みたいな静けさに沈んだ。

何十もの視線が一斉に突き刺さる。驚き、探るような疑い、畏れ...

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