第3章
エレベーターの扉が閉まったその瞬間、ドアの向こう側の空気が完全に変わった。
警備員というストッパーを失い、彼らは最後の一抹の偽装すら保とうとはしなかった。
「クズ! よくも警備員を呼びやがったな? 俺たちをコケにしやがって! ドアが開いたらぶっ殺してやる!」雅也が外からドアを思い切り蹴り飛ばした。
ガンッ! 防犯ドアが激しく震える。
「やめなさい雅也、ドアを壊しちゃ駄目よ。ここはこれから私たちの家になるんだから!」加美恵が声を潜めた。その口調には、吐き気を催すほどの強欲さが滲み出ている。
私は息を殺し、ドアにぴったりと身を寄せながら全身を震わせた。
「悠介、パスワードはまだ分からないの? この睡眠薬、裏ルートで大金叩いて手に入れたんだからね!」加美恵の声は舌を出す毒蛇のように、冷血で悪意に満ちていた。
睡眠薬?!
私の瞳孔が瞬時に開く。
「母さん、焦るなよ。パスワードなんてすぐ解ける」悠介が冷笑を漏らした。
「焦るに決まってるでしょ? いい、ドアが開いたら私と雅也であの女を押さえつけるから、あんたはすぐに薬を鼻に押し当てるのよ! 絶対に声を出させて、近所の人間を呼ばせちゃ駄目!」
加美恵は意地悪く鼻を鳴らし、興奮に声を震わせた。
「気絶している隙に、さっさと済ませなさい! あんたの子供さえ孕ませれば、こっちの思い通りよ! この高級マンションも、銀行口座の金も、全部うちの家のものになるんだから!」
「既成事実さえ作っちゃえば、警察に駆け込んだって無駄よ!」
ドクンッ!
頭の中が真っ白になり、胃袋が激しく波打って、嘔吐しそうになった。
ただ腹いせに私を殺そうというのではない。
彼らは私を完全に破滅させようとしているのだ! 血を吸う寄生虫のように、骨の髄までしゃぶり尽くし、私の財産も人生もすべて奪い取ろうとしている!
体が抑えきれないほど震え出した。絶対に彼らの思い通りにはさせない!
『ピッ。ピッ。ピッ』
電子錠のボタンを押す音が再び響く。
「素子、ドアの向こうで聞いてるんだろ?」ドア越しに聞こえる悠介の声には、病的な興奮と残忍さが入り混じっていた。
「パスワードは、お義母さんの誕生日だろ?」
心臓が大きく跳ねた。
まさにそれが、私の設定したパスワードだった!
やめて! お願い、やめて!
『ピッ』
最後の数字が押された。
その瞬間、空気が完全に吸い取られたかのように感じた。
『カチャッ』
静寂の中に、澄んだ機械音が響き渡る。
電子錠の緑色のランプが点灯した。
鍵が、開いた!
「アハハハハ! 開いたわ! 突撃! あのクズを捕まえなさい!」加美恵が狂信的な金切り声を上げた。
私は絶望して目を閉じ、手足が氷のように冷たくなり、急速に力が抜けていくのを感じた。
終わった。
すべてが、終わった。
まさに間一髪、その致命的なハンカチがドアの隙間を抜け、私の頬に押し当てられようとしたその瞬間、廊下の反対側から突然、怒声が轟いた。
「お前たち、何をしている!」
悠介の手がピタリと止まる。
廊下の突き当たりから、完全武装した三人の警察官が大股で近づいてきた。
彼らの手に握られた黒々とした銃口はすでに半分抜かれ、ドアの前の悪魔たちに真っ直ぐ向けられている。
「全員下がれ! 両手を頭の後ろで組め!」先頭の警官が鋭く張り詰めた声で怒鳴った。
悠介は感電したかのように睡眠薬の染み込んだ布を放り投げ、両手を高く挙げた。
一秒前まで残忍さに満ちていた顔が、瞬時に無実で、焦燥し、かつ深い愛情に満ちた偽善的な顔へと切り替わった。
「お巡りさん! 撃たないでください! これはとんでもない誤解です!」
悠介の声は切羽詰まったような、それでいて不当な扱いを受けているかのように聞こえた。
「僕はここの住人なんです! 中にいるのは彼女の素子で、さっきちょっとしたことで痴話喧嘩をしてしまって。彼女、頭に血が上って中に入れてくれないんですよ!」
「そうよお巡りさん。私たち家族は台風で車が壊れてしまって、ここに避難しに来ただけなんです!」加美恵も即座に哀れな老婆のポーズを取り、数滴の涙まで絞り出した。
ドアの裏に隠れている私の胃は、抑えきれないほど激しく波打っていた。
吐き気がする。
こいつらは生まれながらのオスカー俳優だ!
「桐谷素子さんはおられますか?」先頭の警官は彼らの猿芝居を無視し、慎重にドアに近づいた。
「通信指令センターの者です。状況の確認に参りました。約束通り、安全確認の暗号は——」
「ハリケーン」私は震える声で暗号を繋いだ。
安全確認完了。
私は全身の残された力を振り絞り、その重い防犯ドアを勢いよく開け放った。
「お巡りさん、彼は嘘をついています!」
私は悠介の鼻先を指差し、極度の恐怖と怒りで掠れた声を上げた。
「彼らは避難しに来たわけじゃありません! さっきドアを叩き壊そうとして、暴言を吐いて、さらには薬で私を眠らせようとしたんです!」
「素子、ハニー、どうして警察にそんな嘘をつくんだ?」悠介はひどく心を痛めたような目で私を見つめ、まるでこの世の理不尽をすべて背負ったかのような表情を作った。
「僕に怒ってるのは分かるけど、警察に迷惑をかけちゃ駄目じゃないか」
「黙れ!」
私は一切の問答を切り捨て、さっきまで死に物狂いで握りしめていたスマートフォンを取り出し、画面を警官の目の前に突きつけた。
「お巡りさん、これがドア越しに録画した動画と音声です!」
動画が再生される。
画面は防犯ドアの隙間から撮影したため多少揺れていたが、音声は信じられないほど鮮明だった。
揺るぎない証拠!
三人の警官の顔色は瞬時に氷のように冷たくなり、手は直接腰の拳銃に置かれた。
「これが君の言う『痴話喧嘩』か?」警官は冷たい視線で悠介を睨みつけた。まるでゴミでも見るかのような目だった。
悠介の顔色はサーッと極限まで蒼白になった。
彼は慌てて半歩下がり、言い逃れようとした。
「お、お巡りさん、これは……言葉の綾です! 冗談を言っていただけで……」
「黙れ。今すぐ、全員この階から立ち去れ。この建物から出て行け」警官の指はすでに引き金に掛かっていた。
「さもなくば、不法侵入と殺人未遂の容疑で今すぐ全員逮捕する!」
実力差は歴然、敗北は決定的だった。
悠介は歯を食いしばった。一秒前まで愛情に満ちていたその目には、今や背筋が凍るような怨恨と殺意が爆発していた。
彼は私を死ぬほど睨みつけた。
「分かった……帰るよ。お巡りさん、今すぐ帰りますから」彼は泣くよりもひどい作り笑いを無理やり浮かべ、家族を引き連れて、逃げるようにエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターの数字がゆっくりと下がっていくのを見て、私は両足の力が抜け、危うく膝から崩れ落ちそうになった。
「桐谷さん、下に見張りを残しましょうか?」警官が気遣うように尋ねた。
「いえ……大丈夫です。助けていただいて、ありがとうございました」私は大きく喘ぎ、全身冷や汗でぐっしょり濡れていた。
警察を見送った後、私はすぐにドアを閉め、再び鍵をかけた。
氷のように冷たいドアに寄りかかり、目を閉じる。
ついに終わった。
私は生き延びたのだ。
長く息を吐き出し、無理やり立ち上がって、浴室で熱いシャワーを浴びようとした。
玄関を通り過ぎようとした、まさにその時。
私の視界の端が、コントロールを失ったかのように、あの大姿見へと向いた。
心臓がドクンと激しく跳ねた!
鏡の中。
血まみれで、服がボロボロになった『私』は、まったく消えていなかったのだ!
