第203章

藤原家本家。

神崎紫苑は、いつになく早い時間に床を離れた。唇から漏れる鼻歌は調子外れで耳障りだが、彼女の機嫌がすこぶる良いことだけは誰の目にも明らかだった。

今日は、愛息である藤原光昼が帰還する日だ。盛装して空港まで出迎えねばならない。

藤原時夜も夢にも思うまい。N国への出張も、DGグループとの提携も、結局は光昼のための踏み台になったなどとは。

あの愚かな姪が、たった一度の出張同行で時夜の動向を漏らしてくれたおかげだ。

株主総会が光昼の呼び戻しを独断で決定できたのも、彼女の暗躍があってこそだった。

「執事」

神崎紫苑は二着のドレス——紫と緑——を鏡の前で体に当てがい、迷っていた...

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