第29章 家宝

高橋玲は声を出して笑ってしまった。この佐藤花子は本当に芝居がうまい。

しかし、そうすればするほど、彼女はこの芝居の舞台を叩き壊したくなる。

言葉を発しようとした瞬間、藤原時夜が無害を演じる佐藤花子に向き直り、冷たく一言を吐き出した。

「出て行け!」

佐藤花子はこれ以上留まる勇気はなかった。今の藤原時夜は爆発寸前で、彼女の一言で変えられるような状況ではない。

そのため佐藤花子は躊躇なく立ち去った。火の粉を浴びたくなかったのだ。

高橋玲だけが残され、嵐の前に立たされた。

藤原時夜は立ち上がり、高橋玲を掴んで窓際へと引きずっていった。

ここは会社の最上階、24階建て。

町全体を見...

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