第5章 復讐の第一歩

道中、鈴木弁護士も事情を聞いていた。高橋玲の境遇は良くなかったのだ。彼は高橋明美が亡くなっても、高橋玲はお嬢様として暮らしているだろうと思っていた。

おまけに彼女は商業界の覇者である藤原時夜と結婚したのだから、きっと華やかな生活を送っているはずだった。

しかし予想外にも、佐藤海一家はあまりにも非道で、高橋玲の人生を台無しにしていたのだ。

そう思うと、鈴木弁護士も足早に高橋玲の後について家の中へ入った。

その時、佐藤海一家は和気あいあいとして、とても和やかな雰囲気だった。

三人とも高橋玲が戻ってくるとは思ってもいなかった。

実際、高橋玲が離婚して実家に戻るのは当然のことだが、この家にはもう彼女の居場所がなかった。以前の彼女なら、きっと隅っこで泣いていただろう。

佐藤花子が最初に彼女が入ってくるのを見て、怒りを露わにして口を開いた。

「高橋玲!誰があなたにうちに来ていいって言ったの!誰か、彼女を追い出して!」

しかし使用人たちは誰も動かなかった。高橋玲は今回は強気で来ており、使用人たちは心得ていた。実はこの家は高橋玲のお母さんのものだった。

所有者が帰宅するのは当然のことだった。

高橋玲は彼女の怒りなど気にもせず、勝手に座り込んだ。ついでに辺りを見回し、久しぶりに帰った自分の家を眺めた。

佐藤花子は彼女が動かないのを見て手を出そうとしたが、鈴木弁護士に止められた。

「佐藤さん、ここは高橋さんの家です。彼女が自宅に戻るのに佐藤さんが口を出す筋合いはありません」

佐藤花子はこの突然現れた男性に驚いた。

「よくもやったわね高橋玲、離婚したばかりなのに早速新しい男を見つけたの。こんな年増でも口に合うなんて、変わった趣味ね」

鈴木弁護士は眉をひそめた。佐藤花子がこれほど手に負えないとは思わなかった。

「佐藤さん、私は高橋さんの弁護士です。もしこれ以上失礼な発言をするなら、法廷で訴えることもできますよ」

傍らで見ていた佐藤海は、鈴木弁護士が身分を明かすのを聞いて口を開いた。

「笑わせるな、うちでいつからお前が物を言うようになった!高橋玲、お前の弁護士と一緒に出て行け、さもないと不法侵入で訴えるぞ!」

高橋玲は表情を変えず、この父親など眼中になかった。

「佐藤さん、あなた本当に面白いわね。私の家に長く住みすぎて、自分が所有者だと思い込んでるの?それにあなた、佐藤花子、私の物を盗んで楽しかった?」

そう言うと、高橋玲は勢いよく佐藤花子が身につけていたネックレスを引きちぎった。

佐藤花子はちょうどネックレスを試着していたところで、彼女の首にかかっていたそのネックレスには貴重なブルーダイヤモンドが埋め込まれていた。価値は数千万円。

それはまさに高橋玲が家に残していたものだった。

佐藤花子は首に痛みを感じ、手で触るとネックレスで擦り傷ができていた。

彼女は激怒して飛びかかった。「このビッチ、これは私のネックレスよ!」

高橋玲は身をかわし、佐藤花子の膝を蹴り上げた。

佐藤花子は彼女の前にひざまずき、痛みで体を起こせなかった。

田中雪子は彼女がここまで手を出すとは思わず、心配そうに自分の娘を助け起こした。

「高橋玲!私たちは何の恨みもないはず。どうして情けも考えず、家に上がり込んで妹を殴り、彼女の物を奪うの!」

佐藤海は妻と娘がいじめられるのを見て、手を上げて高橋玲を打とうとした。

またしても鈴木弁護士に止められた。

高橋玲は座り、表情には嘲笑が浮かんでいた。

自分のネックレスを盗んでおいて、逆に被害者面をする。なんて笑えることか。

焦らなくていい、今日は誰も逃げられない。

「佐藤花子、あなた高級品も買えないくせに。どこから数千万円もするネックレスを手に入れたの?私の物はまだ家にあったはず、私のジュエリーボックスから盗んだんでしょ?忘れたの?」

佐藤花子は膝の痛みで顔をゆがめていた。

この高橋玲、まさかこんなに高価なネックレスを持っていたなんて。

自分はただネックレスが綺麗だから身につけてみただけなのに。まさか数千万円もする代物だとは知らなかった。

でも家に置いてあるなら、それは佐藤花子のものだ。

佐藤花子は怒りを露わにした。

「何があなたのネックレスよ!私のものは私のもの!返さないなら、不法侵入と強盗で警察に通報するわよ!」

鈴木弁護士は彼女の厚かましさに驚いたが、高橋玲がまた立ち上がり、佐藤花子の前に歩み寄ったのを見た。

「こんな美しいブルーダイヤモンドは、一つ一つに固有の番号があるの。あなたのものだというなら、その番号を覚えているでしょうね?」

佐藤花子は慌てた表情を見せた。どんな番号なんて覚えているはずがない。盗んだばかりの品が、こうして元の持ち主に取り返されてしまった。

目の前の高橋玲には、かつての臆病さはなかった。

彼女は冷静な表情で、三人を見回した。

佐藤花子は突然恐怖を感じ、自分が高橋玲を平手打ちした時に彼女が言った言葉を思い出した。

「人が私を害さなければ、私も人を害さない」

田中雪子は自分の娘がいじめられるのを見過ごせず、口を開いた。

「何の番号よ!あんな長い数字、誰が覚えてられるの?高橋玲、ごちゃごちゃ言わないで!」

佐藤花子は母親に促されて、再び自信を取り戻した。

「そうよ!番号なんて長すぎて、誰も覚えられないわ!ネックレスを返して、さっさと私の家から出ていきなさい!」

高橋玲は二人の言い訳が滑稽で、面白そうにネックレスを掲げた。

光の屈折の中で、宝石は目もくらむほどの輝きを放ち、この一家の醜い本性も照らし出した。

「番号を覚えていないなら、購入証明はあるの?」

「私は......」

佐藤花子が言葉を発する前に、高橋玲に遮られた。

「当てさせて。きっと『なくした』って言うつもりでしょ。でも大丈夫、こんな貴重な物なら、購入記録は必ずあるわ。警察を呼びましょう。誰がこのネックレスの本当の持ち主か、ちゃんと調べてもらいましょう」

佐藤花子は完全に動揺し、顔色は最悪だった。

誰も動かないのを見て、高橋玲は目をパチクリさせ、わざと無邪気な様子で言った。

「どうして警察を呼ばないの?ネックレスはいらないの?」

田中雪子は高橋玲が離婚後にこんなに口達者になったとは思わなかったが、今の状況は不利だった。

警察を呼ばせるわけにはいかない。証明書を出せなければ、彼らは泥棒として確定してしまう。

しかし、こんな高価なネックレスを高橋玲の手に渡すのも、田中雪子は納得できなかった。

彼女は心の中で冷笑した。どんなに強気でも関係ない。高橋玲の実母すら打ち負かしたのだから、この小娘など問題ではない。

田中雪子は困ったふりをして口を開いた。

「玲ちゃん、あなたが帰ってきて両親はとても嬉しいわ。花子はまだ若いの。彼女のことは大目に見て、家族みんなで座って食事をしましょう。話し合えば分かるわ」

高橋玲は田中雪子の精神力に感心せざるを得なかった。彼女はいつもこの優しく思いやりのある姿で佐藤海を虜にしていた。

今や家の中で争いが起きているのに、田中雪子は平然と事態を収めようとしている。

しかし高橋玲はもう騙されない。この継母は毒蛇だ。油断した瞬間に、容赦なく噛みついてくる。

そこで彼女は皮肉っぽく言った。

「誰が私の両親?私の両親は死んだわ。私のお母さんは高橋明美よ。あなたなんて何様のつもり?それにあなたの娘、不倫相手との間に生まれた子供が私の妹のようなふりをするなんて!」

高橋玲の言葉には嘲りが満ちていた。佐藤海は怒り、手を上げて彼女を叱ろうとした。

「この親不孝者め!お前の父親はまだ生きているぞ!お前のお母さんが優しく話しているのに聞かないで、誰の許可で俺の家で威張り散らしてる!」

高橋玲は素早く彼の手を掴み、強く振り払った。

佐藤海は年老いており、彼女に振り払われてバランスを崩し、ソファに倒れ込んだ。

佐藤花子と田中雪子はこの光景を見て、同時に叫んだ。

「お父さん」

「旦那様」

高橋玲はこの情緒的な場面を見て、思わず拍手した。佐藤花子に向かって言った。

「意外ね、あなたの演技力は遺伝なのね。私の高橋家の屋敷で何年も快適に暮らしておいて。今、私が帰ってきたら、私が悪者になるの?」

三人が反応する前に、高橋玲は直接命じた。

「鈴木弁護士、警察に通報をお願いします。警察が来れば、誰が泥棒で誰が持ち主か、自然とわかるでしょう」

鈴木弁護士はうなずき、携帯を取り出して警察に通報した。

佐藤花子は足の痛みに耐えながら、携帯を奪おうとした。

「よくもそんなことを!」

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