第75章 私が来たことは、あなたが誰の奥様かとは無関係です

そのときだった。

いかにも育ちのよさそうな男がひとり、柔らかな笑みを浮かべて杏璃の前へ歩み出た。

「岩崎さん。おじいさまへのお祝いです。ほんの気持ちですが」

小池慶人は金色の箱を差し出した。

中に収められていたのは、やはり布地。しかも質も値も、杏璃が贈った反物にまったく引けを取らない。

それを見て、杏璃はかすかに眉を寄せる。

小池慶人とは、これまでほとんど接点がなかった。

そんな相手が、どうしてこれほど高価な贈り物を――。

杏璃が考えをまとめるより早く、岩崎蘭子がすっと手を伸ばして箱を受け取り、にこやかに席を勧めた。

「小池さん、ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ...

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