第76章 彼女はまさか浮気しようとしている

その間も、文哉からは仕事中の杏璃に何度も電話がかかってきた。けれど手が離せず取れないまま、あとで折り返しても、今度は向こうが「ただいまおつなぎできません」だった。

杏璃は深く考えなかった。まして文哉のために、自分のやるべきことを投げ出す気など、もうさらさらない。

三日後。

作品の最後のパートをようやく仕上げ、帰って泥みたいに眠ろうと立ち上がった瞬間、デスクのスマホがぶるぶると震えた。

「岩崎さん」

小池慶人の声。

杏璃は眉間に皺を寄せる。

「小池さん、何か用ですか?」

「今日、誕生日会でちょっと飲みすぎちゃって。岩崎さん、よかったら家まで送ってくれませんか」

杏璃の眉はさら...

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