第3章

 私は思いきり舌を噛みしめた——

 激痛が瞬時に脳髄を貫く!

「くそっ!」

 口内に広がる血の匂いを察知した賢也が、鋭く悪態を吐く。

 彼は咄嗟に手を引っ込めると、私の顎をきつく掴み、親指で乱暴に食いしばった歯列をこじ開けようとした。

「口を開けろ!」

「やっ……」

 私は必死に抵抗する。

「江里花、お前、舌を噛み切るつもりか」

 その声には明らかな怒気が孕んでいた。

「口を開けろ! 今すぐだ!」

 逆らうことの許されない圧倒的な威圧感に、私の本能が屈服してしまう。

 唇を強引にこじ開けられ、スッと長い二本の指が口腔内へと侵入してくる。舌面を押さえつけられ、傷口を丹念に確かめられた。

「くそっ……」

 彼は眉間を深く寄せる。

「こんなに深く噛みやがって……」

 指の腹にあるざらついた薄いタコが、温かく柔らかな舌と擦れ合い、口内をゆっくりと掻き回す——

「んっ……ぁ……」

 喉の奥から、甘く掠れたような嬌声が漏れ出た。

 私は目を見開いた。こんなにも淫らな声が自分の口から発せられただなんて、到底信じられなかった。

 賢也の動きが、ぴたりと止まる。

 彼は伏し目がちに私を見つめ下ろし、喉仏を大きく上下させた。その呼吸は次第に荒くなり、深淵のような瞳の奥には、ひどく危険な暗い欲望が渦巻いている。

「江里花……」

 射抜くような鋭い視線。その声は低く掠れていた。

「今、自分がどんな顔をしているか分かっているのか?」

 私は恐怖に駆られて首を横に振り、逃げ出そうとした。

 だが、私のうなじをホールドする手の力がさらに強まり、強制的にこの屈辱的な体勢を維持させられる——

 彼を仰ぎ見るような姿勢で、唇は彼の指に蹂躙され、口角からはだらしなく唾液が零れ落ちていく。

 この五年間、どんな男にもこんな風に触れさせたことなどなかった。

 孤独な深夜、私は自身の指や冷たい玩具で慰めるしかなかった。それらは冷ややかで、硬く、何の体温も持たない——今私の口内にある、温かくてざらついた、彼の匂いを纏う指とはまるで違う。

 それなのに、今は——

 長年慕い続けてきた上司の目の前で、私は淫婦のように、彼の指に口内を弄られて喘いでいるのだ!

 圧倒的な羞恥心が、私をすっぽりと呑み込んだ。

 賢也はゆっくりと指を引き抜く。私の唾液に塗れたその指の腹が、薄暗い照明を反射して妖しく水光りを放っていた。

 彼は自分のその手を数秒間見つめ、再び喉仏を動かす。

 次の瞬間、彼がふいに身を屈め——

 その薄い唇が、乱暴に私の唇を塞いだ!

「んんっ……!」

 拒絶の声は、彼に飲み込まれた。顎をきつく掴まれたまま、容赦なく差し込まれた舌先が私の歯列をこじ開け、奥深くまで侵入しては狂ったように蹂躙し尽くす。

 これが、私のファーストキスだった。

 唇と舌が絡み合う場所から電流のような快感が弾け、全身へと駆け巡る!

 私は激しく身を震わせた。薄い生地の先にある胸の頂が急激に膨らみ、硬く熱を帯びていく。呼吸をするたびに布地と擦れ合い、気が狂いそうなほどの刺激をもたらした。

 下半身もまた激しく収縮し、さらに多くの蜜が溢れ出す——

「だめっ!」

 どうにか隙を見つけて彼を突き飛ばした私は、その剥き出しの胸板に両手を当て、泣きそうな声で叫んだ。

「賢也、ずっと私を見守ってきてくれたじゃない……お父さんだって、あなたのことを信頼してるのに……」

 賢也は微動だにしなかった。

 その口角がゆっくりと吊り上がり、冷酷な笑みを浮かべる。

「見守ってきた、だと?」

 彼は顔を近づけ、鼻先が触れ合うほどの距離で囁いた。

「江里花、お前は今年で二十二歳だ。俺が初めてお前に会った時、お前はもう十七歳だったぞ」

 彼の手が私の頬を包み込み、キスで赤く腫れ上がった唇を親指で優しくなぞる。

「それに……」

 彼は言葉を区切り、意味深な視線を向けてきた。

「俺を見る時、お前の目は飢えで満たされていた。いつだって、視線で俺を舐め回し、俺に組み敷かれるところを想像していただろう」

 私はハッと目を見開く。

 嘘……どうして、彼がそんなことを知って……

『あっ……あぁっ……そこ……もっと早く……』

 突然、隣のスイートルームから女の甲高い嬌声が響いてきた。肉と肉が激しくぶつかり合う生々しい水音と、男の荒々しい喘ぎ声が混ざり合っている。

 それが、張り詰めていた糸が切れる決定的な引き金となった。

 私の中にある『発情症』が、最も恐ろしい形で爆発したのだ!

 身体が制御不能なまでに弓なりに反り返る。胸の頂が恐ろしいほどに張り詰めて痛み、まるで内側から狂ったように訴えかけているようだった。触れてほしい、揉みしだいてほしい、温かい口内に含んでほしい、と。

「んっ……ぁっ……」

 私は完全に言葉を失っていた。

 賢也が身をかがめ、その薄い唇を私の耳朶に寄せる。

「聞こえるか?」

 彼の手がスカートの裾へと滑り込み、太ももの内側にその掌を這わせた。

「こんなにも欲しがっているくせに、まだ猫を被るつもりか?」

 彼のもう片方の手が、不意に私の胸元を覆い——

 薄い布地越しに、張り詰めて痛むその先端を的確に摘み上げる。

「あっ——!」

 甲高い悲鳴が口を突いて出る。あまりにも強烈な刺激に、私は感電したかのように激しく身を震わせた。

「助けて……」

 私はついに陥落した。

 理性の防壁が瞬時に崩れ去る。もう彼を突き放すことなどできず、その首にすがりつき、熱く火照った身体を余すところなく彼へと擦り寄せた。

「賢也……お願い……助けて……」

 大粒の涙が、ぽろぽろと零れ落ちていく。

 あんな冷たい玩具じゃ、全然足りない。

 私が求めているのは、本物の、温かい、生身の男なのだ。

 賢也の身体が一瞬強張る。直後、その瞳の奥にあった偽装が完全に剥がれ落ち、長く潜伏していた獣のような貪欲さが露わになった。

 彼は私の腰を鷲掴みにし、ベッドの中央へと引きずり込む。

「お願い、だと?」

 彼は私を見下ろした。その眼差しは、絶対的な支配欲に満ちている。

「俺にどうしてほしいんだ?」

「お願い……私に、ちょうだい……」

 私は泣きじゃくりながら、尊厳など欠片もなく哀願した。

「はっきり言え」

 彼は一切動こうとせず、ただ冷ややかな視線を私に注ぐ。

「俺に何をされたい?」

「お願い……触って……」

 私はついにその言葉を口にした。消え入りそうなほど小さな声で。

「お願い……私を、犯して……」

 賢也の瞳の奥にあった最後の理性が、音を立てて崩れ去った。

 彼の大きな掌が、荒々しくスカートの中へと侵入し——

 ひどく泥濘んだその源へと、的確に辿り着いた。

「本当に、欲張りで淫らな化け物だな」

 彼は低く笑い声を漏らす。

 スッと長いその指が、容赦なく深奥へと突き入れられた!

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