第4章

「あっ――!」

 私は首を反らせ、甘く掠れた悲鳴を上げた。

 賢也の指が私の中を乱暴に掻き回し、敏感な粘膜を的確に抉っていく。内側が満たされる感覚が、あまりにも生々しい――温かく、無骨で、彼の匂いを纏っていて――無機質で冷たい玩具なんかとはまるで別物だ。

「んっ……深、すぎ……っ」

 私は彼の腕に縋りつき、その肌に爪を深く食い込ませた。

 その時だった――

 不意に、廊下の外から騒がしい足音と話し声が聞こえてきたのだ。

「くそっ、112号室の客が酔って暴れてるぞ! ボトルをそこら中に叩き割ってやがる……」

「早く警備を呼べ!」

 トランシーバーのノイズ交じりの音声と共に、足音がどんどん近づいてくる。

 私は全身を強張らせ、恐怖に目を見開いた。必死に賢也の胸を押し返す。

「人が……お願い、やめて……っ」

 だが、賢也は動きを止めるどころか、意地悪くそのストロークを速めた。身を屈め、私の耳介に口づけを落とす。

「なら静かにしろ。聞かれたくないならな」

「んぐっ……」

 私は必死に唇の内側を噛み締めた。快感による生理的な涙が、瞬時に瞳から溢れ出す。

 指が出入りするたびに、脳が焼き切れるような刺激が走る。必死に声を殺そうとするのに、身体は正直に収縮を繰り返し、さらなる蜜を溢れさせては、静まり返った部屋にひどく淫らな水音を響かせてしまう。

 ガンガンガンッ――

 突如、乱暴にドアを叩く音が響き渡った。

「藤川様! いらっしゃいますか? 船内セキュリティの者です。隣室の客が泥酔して物を破壊しておりまして、安全確認をお願いしております!」

(終わった……)

 警備員がマスターキーでドアを開ければ、兜町で最も堅物で禁欲的と謳われる社長が、あろうことか部下の女に最低で淫らな行為を働いている現場を見られてしまう。

「人が……賢也さん……お願い、やめて……」

 私は生きた心地がせず、半ば泣きじゃくりながら哀願した。

 賢也は私の口を乱暴に塞ぐと、ベッドから強引に引きずり起こし、そのまま大きな掃き出し窓へと歩を進めた。

 窓の外は漆黒に荒れ狂う海だ。巨大な波がクルーザーに打ち付け、大粒の雨がガラスを叩き割らんばかりに降り注いでいる。

 彼は私を冷え切った窓ガラスに押し付け、背後からべったりと体を密着させてきた。片手で私の口を塞いだまま、もう片方の手は……。

 めくり上げたスカートの下で、容赦なく私の秘所を弄り続けている!

「問題ない」

 賢也はドアの向こうに向かって、冷ややかな声で言い放った。

「邪魔をするな」

 だがその瞬間、彼の指が凶悪なまでに深々と突き入れられ、私を狂わせるあの場所を正確に抉り上げた――。

「んんっ!!」

 口を塞がれている私は、絶望的で甘ったるい嗚咽を漏らすことしかできない。涙が頬を伝い落ちるのに、身体は制御を失い、彼の与える律動に合わせて勝手に腰を振ってしまう。

 極限の羞恥心と背徳的なスリルが入り混じり、私の理性を崩壊の淵へと追いやる。

 ドアの外にはまだ足音が留まっており、警備員が中を改めるべきか躊躇している気配がした。

 そして私は――。

 彼の手の中で、完全に果てたのだ。

 津波のような絶頂が全身を飲み込む。体は激しく痙攣し、両足から力が抜け落ちる。背後から賢也に強く抱きすくめられていなければ、とっくに床へ頽れていたはずだ。

 どれほどの時間が過ぎたのだろうか。やがて、ドアの外の足音が遠ざかっていった。

 私は糸が切れたようにずるずると崩れ落ち、分厚い絨毯の上にへたり込んだ。声もなく涙だけがとめどなく溢れる。

(終わった……何もかも、終わってしまった……)

 最も畏れ敬っていた年上の彼に、こんなにも淫らで見るに堪えない姿を晒してしまった。絶対に気持ち悪いと思われている。恥知らずな売女だと軽蔑され、きっと父にまで言いふらされてしまう……。

 賢也はしゃがみ込み、その長い指で私の顎を掴むと、強引に視線を合わせさせた。

「何を泣いてる?」

「私……」

 私は自暴自棄になって目を閉じ、掠れた声で絞り出した。

「病気なんです……人には言えない病気で……薬がないと、発情することしか頭にない化物になってしまうんです」

 涙の雫が絨毯に吸い込まれていく。

「賢也さん、これで私の本性がわかったでしょう。きっと私のこと、気持ち悪い、恥知らずな売女だって……」

 空気が死んだように静まり返る。

 私は判決を待っていた。嫌悪に満ちた眼差しと、冷酷な追放の言葉を。

 だが次の瞬間、不意に身体が宙に浮いた――。

 賢也が私を軽々と横抱きにし、部屋の中央にある巨大な姿見へと大股で歩き出したのだ。

 彼は私の背中を自身の胸に預けさせるようにして鏡の前に立たせると、片腕を私の腰に回し、その腕の中にきつく閉じ込めた。そしてもう片方の手で私の頬に触れ、鏡の中の自分を無理やり直視させる。

 鏡に映る私は酷く着崩れていて、長い睫毛には涙の粒が光り、頬は熱を帯びて赤く染まり、唇は執拗な口づけで腫れ上がっていた。その背後には彼が立っており、大柄なシルエットが私をすっぽりと包み込んでいる。

「化物、だと?」

 彼は低く嗤った。

「江里花、鏡の中の自分をよく見てみろ。これのどこが化物だってんだよ」

 私は驚きのあまり目を丸くした。

 賢也は鏡越しに私と視線を絡ませる。その深淵のような瞳の奥では、酷く危険な何かが燃え盛っていた。

 彼が身を屈め、薄い唇が私の耳介を掠める。

「俺がどうして、こんな退屈なパーティーに来たかわかるか?」

 彼の手が首筋を這い下り、指先で鎖骨をなぞり上げる。

「お前がここにいるからだ。俺は五年間、ずっとお前を待っていたんだぞ、江里花。五年間だ。ようやく、自分から俺のところに転がり込んできやがって」

(え……?)

「十七でお前に初めて会った時、赤いドレスを着て父親の書斎の前に立っていたお前を見てな」

 彼の声が、一段と低く掠れたものに変わる。

「そのまま書斎のデスクに押し付けて、泣き喚くまで犯してやりたいと思ったんだよ」

 頭の中が真っ白になった。

 この、氷のように冷徹で、雲の上の存在だった男が、ずっと密かに私を狙っていたというのか?

「五年間だ」

 彼の手が襟元から滑り込み、無骨な掌が私の胸を直接鷲掴みにする。

「会社で俺を避けようとするのも、会議中に盗み見ては慌てて目を逸らすのも、俺が近づくたびに小動物みたいに震え上がるのも、ずっと見てきた」

 突如、彼が顔を伏せ、私の鎖骨に鋭く歯を立てた。

「あっ――」

 鋭い痛みと共に、ひどく歪んだ快感が弾け飛ぶ。彼は思いきり噛みつき、血の味が滲むほどの痕をつけてからようやく唇を離した。私の真っ白な肌には、くっきりと深い歯型が刻み込まれていた。

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