第7章

恵理子視点

法廷は、書類をめくる音以外は静まり返っている。春の日差しが高い窓から差し込んでいる。私はシンプルな紺色のスーツを着て、申立人席に座っていた。アクセサリーはなし。余計なものは何もない。ただ、私だけ。

通路を挟んだ向こう側の真は、ひどい有り様だった。スーツはしわくちゃで、目は充血し、髭も剃っていない。半年前の、自信に満ちた投資会社の代表とは似ても似つかなかった。

彼の弁護士が立ち上がる。「裁判長、証拠の大半は状況証拠です。被告は夫婦間の不貞行為については認めておりますが、暴力に関する申し立てについては……」

裁判官が彼の言葉を遮る。「弁護人、すべて目を通しました。新...

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