第4章
来客用の部屋にある狭いデスクは、私のラップトップを置くのがやっとだった。拓海のリンクトインのメッセージを、もう二十分も見つめている。傍らのコーヒーはすっかり冷めてしまった。
美咲の存在は、私を昔から変わらない、ただの『お手伝いさん』へと引き戻した。
指がキーボードの上をさまよった。画面では石原拓海のリンクトインのメッセージが光っている。国連人権部門。C大卒。プロフィール写真の温かい笑顔――和也の抗いがたい魅力とは、まったく違う。
もういい。
私はキーボードを叩き始めた。『拓海さん、こんにちは。ご連絡ありがとうございます。ぜひ、そのお話について詳しく伺いたいです。今週、どこかでお茶でもいかがでしょうか?』
送信ボタンを押すのをためらった、その時。控えめなノックの音とともに、「絵里?」とさくらの声がドアの向こうから聞こえてきた。
すぐにラップトップを閉じる。「入っていいわよ、さくら」
さくらはパジャマのまま、ぴょんと部屋に飛び込んできたが、画面を見てぴたりと足を止めた。「絵里、誰とお話ししてたの? すっごくハンサム!」
心臓が跳ねた。「大学の時の、昔の友達よ」
七歳児ならではの直感で、彼女は目を細めた。「優しそうな人ね。どうして緊張してるの?」
「緊張なんてしてないわよ」。私は無理に微笑んだ。「さあ、キッチンに行って、お昼の準備をしましょう」
しかし、さくらは騙されなかった。フランス語の授業で見せるのと同じ真剣さで、私の顔をじっと見つめる。「なんだかいつもと違う。パパがママに話しかける時みたい」
まったく……子供でさえ気づくのに、私ときたら。
「緊張してないってば」私はラップトップをぱたんと力強く閉じた。「ほら、渡辺さんが朝食に何を作ってくれたか見に行きましょう」
さくらが楽しそうに先を駆けていく隙に、私はさっと画面を開き直した。決意に満ちた自分の顔が一瞬映り込み、そして私は送信ボタンを押した。
もう、誰かの都合に合わせるのはやめよう。
土曜の午後、この喫茶店は、いつもとは違う世界のようだった。クラシック音楽、本物のコーヒーの香り――この一週間、私が点滴のように摂取し続けてきたカフェインとは違う。
「水原さん、ですよね?」
拓海がテーブルの横にすっと現れた。そして、くそ、本当に、素敵な人だった。背が高く、心からの温かい笑顔。私を見るとき、その瞳はちゃんと私自身に焦点を合わせている。見慣れてしまった、欲望に満ちた視線とは違う。
「拓海! ゼミで相変わらず鋭い質問してる?」
彼は笑いながら、私の向かいに腰を下ろした。「いつでもね。それで、最近は何に夢中なの? 仕事以外で」
その質問に、私はハッとした。そんなこと、誰にも聞かれたことがなかった。まったく……もしかしたら、生まれてこの方一度も。
「昔は、文章を書いていたんです」その言葉は、久しぶりに口にする言葉だった。「でも、まあ……いろいろあって」
「夢に有効期限なんてないよ、絵里」
それから二時間、私たちは本当に『話した』。ガルシア・マルケスについて、旅について、人生について。拓海は私の卒論を覚えていてくれて、さらに突っ込んだ質問をしてくれた。一度もスマホをチェックしたり、他の女性に目をやったりしなかった。
こんなに真剣に話を聞いてもらえるなんて。
「少し、歩かない?」彼は公園の方を指さした。
黄昏時の中央公園は、くだらない恋愛小説に描かれるように美しかった。手をつなぐカップル、完璧なタイミングで舞い落ちる木の葉、瞬き始めるイルミネーション。拓海は、それが世界で一番自然なことであるかのように、私の手を取った。
「最後に、ただ自分のためだけに何かをしたのはいつ?」噴水を通り過ぎながら、彼が尋ねた。
「どういう意味?」
「仕事のためでも、誰かのためでもなく。ただ、絵里がそうしたいからっていう理由で」
喉が締め付けられた。「……ずいぶん、前ね」
「じゃあ、それを変えよう。来週博物館で、新しいラテンアメリカ文学の展示があるんだ」
最上階のマンションのエントランスに着く頃には、心から笑いすぎて頬が痛いくらいだった。
その時、ロビーの窓越しに和也の姿が見えた。
現実に、氷水を浴びせられたようだった。
和也はリビングで美咲と向かい合っていた。コーヒーテーブルには書類が広げられている。私が入っていくと二人は顔を上げ、和也は私の様子を見て目を鋭くした。
「出かけていたのか」。彼の声は、問いかけではなかった。
「美術館に行ってたの」。嘘は簡単に出てきた。「少し、気分転換したくて」
美咲が書類から顔を上げ、丁寧な関心といった表情を向けた。「ちょうど、さくらの今後の教育について話していたところですわ、絵里さん。あの子にはもっと…体系的な環境が必要だと思うの」
胃がずしりと重くなった。「さくらは順調に伸びています......」
「絵里」。和也が遮った。その声には、私が恐れるようになった鋭さが宿っていた。「君のスケジュールについて話がある。今後はもっとさくらに集中してもらいたい」
「私はいつでもさくらに集中しています」
だが、和也の注意は別のことに移っていた。彼の視線は私の顔に留まり、頬の紅潮や、瞳の輝きを吟味するように見つめていた。
「なんだか、いつもと違うな」彼はゆっくりと言った。
今日、私の話を真剣に聞いてくれる人がいたから。私を、ただ都合のいい存在としてではなく、一人の人間として見てくれる人がいたから。
「大丈夫よ」と私は言った。「少し疲れただけ」
それからの週、すべてが変わった。
新しい服を買った。別に劇的な変化というわけではない。ただ、透明人間ではなく、自分らしくいられるような服を。再び化粧をするようにもなった。渡辺さんはすぐに気づいた。
「水原さん、最近とても……輝いていらっしゃいますね」
「ありがとう、渡辺さん。気分がいいの」
さくらはもっと単刀直入だった。「絵里、どうして急にそんなに綺麗になったの? 彼氏ができた?」
「さくら!」私は笑ったが、頬が熱くなった。「ただ、自分のことをもっと大切にしようと思ってるだけよ」
だが、和也も気づいていた。彼の視線はますます熱を帯びて私を追い、何気ないボディタッチはより所有欲の強いものになっていった。夜遅く、彼は来客用の私の部屋のドアの前に現れるようになった。
「絵里、この家での君の責任を忘れていないといいが」
「何もかも、完璧に覚えていますわ」
金曜の夜、公園のウィンター・ビレッジは、きらめくイルミネーションと、ペアで滑るスケーターたちでいっぱいだった。拓海と私は、自分たちのお粗末なスケーティング技術に笑いながら、アイスリンクをよろよろと滑った。
しかし、笑顔を浮かべながらも、心の一部はどこか上の空だった。和也は何をしているだろう。私が夕食に帰ってこないことに気づいているだろうか。
「絵里」と、リンクの端で息を整えながら拓海が言った。「君と過ごしたこの数週間……君のおかげで、どうして僕がこの街を愛しているのかを思い出したよ」
私は無理やり彼の顔に意識を集中させた。優しい瞳、誠実な笑顔。女性なら誰もが望むであろう、すべてがそこにあった。
「あなたも、私にいろんなことを思い出させてくれるわ」
「例えば?」
「例えば、私はちゃんと大切にされる価値があるってこと」。その言葉は、まるで練習したかのように、無意識に出てきた。
彼の表情が真剣になった。「絵里、君はただ大切にされる価値があるだけじゃない。君は、愛されるべきなんだ」
その言葉に、胸が高鳴るはずだった。なのに、私の頭に浮かんだのは和也の手、そして暗闇で私の名前を呼ぶ彼の声だった。
「ありがとう」と私はなんとか言った。「すごく嬉しい」
しかし、拓海が私の手を握りしめても、私の頭の中は和也のことでいっぱいだった。
その夜、家に帰ると、和也がリビングで待っていた。美咲はもう寝室に行った後だった。
「誰と会っていたのか知りたい」彼は前置きなしに言った。
「あなたには関係ないことよ、藤原さん」
「この家のことはすべて、俺の管轄だ。君も含めてな」
彼の声に宿る所有欲に、肌が粟立った。「私はあなたのものじゃないわ、一度だって、あなたのものになったことなんてない」
「俺たちには合意がある。それを守ってもらう」
「何の合意? 私はさくらの家庭教師よ、覚えてる?」
彼の顎がこわばった。「どういう意味か、分かっているはずだ」
だが、もう彼のゲームに付き合うのはうんざりだった。「私が知っているのは、あなたのベッドには奥様が寝ていて、それでもまだ私を支配できると思っている、ということだけよ」
彼の顔から血の気が引いた。「後悔するぞ、あんた」
「後悔しているのは、私をただの便利な存在としか見ていない人に、十八ヶ月も無駄にしたことだけよ」
彼が何か言い返す前に、私は背を向けた。アドレナリンで手が震えていた。しかし、来客用の部屋に引きこもりながらも、心の一部では彼が追いかけてきてくれることを期待していた。
彼は来なかった。
日曜の午後、拓海は私を再び噴水のところへ連れてきた。私たちが初めて歩いたのと同じ場所。だが、何かが違う。空気が、重い。
「絵里」と、彼はいつもと違う真剣な声で切り出した。「君と過ごしたこの数週間で、僕は幸せがどんなものかを知ったんだ」
胃がずしりと落ちた。この口調には聞き覚えがある。「拓海……」
彼がジャケットに手を入れた瞬間、私の世界が傾いた。小さなベルベットの箱。
「展開が早いのは分かってる。でも、確信したんだ」彼の手はわずかに震えていた。「絵里、僕と結婚してくれないか?」
その問いかけに、指輪を見つめる私の頭は真っ白になった。
美しい。安全。すべて、和也が決して与えてはくれないもの。
「本当に?」私は囁いた。「本当に、私が欲しいの?」
「これほど確信したことはない」
喜ぶべきだった。安堵すべきだった。なのに、私の頭に浮かぶのは、昨夜の和也の顔ばかりだった。私が美咲のことを口にした時の、彼のこわばった顎のライン。
これが正しい選択なのよ、と私は自分に言い聞かせた。これが、新しい人生への切符……
「はい」と、自分の声が聞こえた。「はい、あなたと結婚します」
指輪はぴったりと指に収まった。拓海が優しくキスをしてくれる。私は涙を浮かべながら微笑んだが、その涙は、あるべき姿よりもずっと複雑な感情を含んでいた。
最上階のマンションへ歩いて帰る途中、一歩進むごとに指輪が重くなっていくのを感じた。
ロビーの窓越しに、和也と美咲が書類を囲んで何やら言い争っているのが見えた。
私はダイヤモンドを見下ろし、和也と過ごしたすべての盗まれた時間について考えた。私たちが何かを築き上げているのだと、自分に言い聞かせてきたすべての夜について。
そして今、私は中に入って、他の男と婚約したことを彼に告げなければならないのだ。






