第1章

「こんな格好で、どれだけ俺に会いたかったんだ?」

山崎川は手を伸ばして林田澄子を引き寄せ、低くかすれた声で言った。

喉仏が上下に動き、焼けるような熱を帯びた視線が林田澄子に注がれる。

林田澄子は仕立ての良い黒いシルクのキャミソールワンピースを身につけ、雪のような肌と曲線美が引き立っていた。

海藻のように黒く艶やかな髪が胸元に垂れ、ちらりと覗く雪白の丸みは、男性の血を沸き立たせるに十分だった。

いつもは可愛らしいパジャマ姿の林田澄子だが、今夜の彼女は特に魅惑的で、まるで妖精のようだった。

林田澄子は彼の視線に少し落ち着かない様子で、頬に薄紅が広がり、瞳の色が一瞬揺らいだ。

彼女は山崎川が帰宅しないと思い、シャワーを浴びた後、何気なくキャミソールワンピースを身に着けただけだった。

山崎川は林田澄子を壁際に追い詰め、不意に片手で彼女の両手を頭上の壁に押し付けた。

手は林田澄子の白く柔らかな頬を優しく撫で、滑らかな肩や首筋を通り、最終的に黒いシルクのキャミソールの肩紐に留まった。

次の瞬間、黒いシルクのワンピースは一気に引き裂かれ、その破片が床に舞い落ちた。

林田澄子は驚きの声を上げたが、反応する間もなく、山崎川の息遣いが彼女を覆い尽くした。

彼の動きはいつもより激しく、まるで林田澄子を自分の体内に溶け込ませようとするかのようだった。

林田澄子はやや持ちこたえられず、彼女の甘い嬌声は山崎川の激しいリズムの中に埋もれていった。

彼女は柔らかく懇願した。

「ゆっくり...して...」

山崎川は林田澄子の言葉が終わるのを待たず、意地悪く彼女の耳たぶにキスをした。

「ゆっくりじゃ山崎奥様を満足させられないな」

彼は唇の端に邪な笑みを浮かべ、突然速度を上げた。

林田澄子は苦しげに啜り泣き、雨の中で繰り返し打ちつけられる浮き草のように、ただ山崎川の首に両手を絡ませ、わずかに揺れを安定させるだけだった。

彼女は怒りを込めて山崎川の首筋に噛みついたが、それは男性からのさらに激しい報復を招いただけだった。

普段は冷淡で無感情な山崎グループ社長の山崎川が、ベッドでこれほど情熱的になるとは誰が想像できただろうか。

一時間半ほど経ち、林田澄子はすっかり疲れ果てたが、山崎川はまだ戦いの真っ最中だった。

眠りに落ちる直前、林田澄子は思わず考えていた。山崎川は今夜、何に刺激されたのだろう?

林田澄子がどれくらい眠っていたのかわからないが、朦朧とした意識の中で携帯の着信音が聞こえてきた。

彼女は何とか目を開け、山崎川が電話に出ているのを見た。

彼女が目覚めたのを見ても、山崎川はまったく気にせず、電話の相手をなだめていた。

「桜、安心して。すぐに行くから」

電話を切ると、山崎川は急いで服を探し始めた。

桜?山崎川の新しい愛人?

結婚して三年、林田澄子は山崎川がこんな優しい声で誰かをなだめるのを見たことがなかった。

何が起きたのかわからなかったが、林田澄子は電話から断続的に女性のすすり泣く声が聞こえてきたことに気づいた。

彼女は携帯の時間を確認した。もう午前1時だった。

少しでも常識のある人なら、この時間に既婚者の異性に連絡することはないだろう。

関係が艶めかしいのでない限り。

すぐに林田澄子の唇に皮肉な苦笑いが浮かんだ。私の夫は本当に忙しいのね!

体力抜群で、こちらではたった今私と激しく戦ったばかりなのに、もう次の戦場へ向かう準備をしている。

しかし山崎川の態度は、いつもとは違うようだった。

そう思うと、林田澄子は少し俯き、自分の肩の髪をもてあそびながら、心の中の失望を隠そうとした。

一着の女性用の服が林田澄子の前の布団に投げられた。

林田澄子は驚いて顔を上げた。

「どういう意味?」

山崎川は服を着ながら言った。

「桜の弟が事故に遭った。桜が怖がって、現場の状況をうまく説明できない。弟が重傷かもしれないと心配してる。お前は医者だろう。一緒に来て、すぐに治療できるようにしてくれ」

林田澄子は呆れて笑い、動かなかった。

快適な姿勢でベッドに横たわり、情事の後の満足感がまだ残る顔で慵懒としていた。

この男は、ズボンを履いたとたん冷たくなる典型だった。

午前1時に彼女に出かけろと?

山崎川はすでにシャツのボタンを留めながら、眉をひそめて彼女を見た。

「なぜ動かない?」

「私は本妻よ。あなたの...」

林田澄子は淡々と山崎川を一瞥し、言葉を選んで「愛人」という言葉を飲み込んだ。

「あなたの愛人を助ける義務はないわ。それに私は勤務外よ。あと、事故で怪我をしたら、すぐに119に電話するべきよ」

「林田澄子、相変わらず冷血だな。医者として、命を救うのはお前の責任だろう」

山崎川は一瞬止まり、冷ややかな目で言った。

「俺たちは政略結婚だ。お前は山崎奥様なんだから、俺の言うことを聞く義務がある。お前の父親のプロジェクトはもういらないのか?」

林田澄子は嘲笑した。

なんて滑稽な言い分だろう。政略結婚だから婚姻に不誠実でいいと?

山崎川のこの価値観。

よくも本妻に浮気相手を助けに行けと堂々と言えるものだ。助けないと本妻が冷血で無情だと?

林田グループのプロジェクトについては、両親に取り繕うために山崎川に軽く話しただけで、山崎川が承諾するかどうかは彼女の考慮の範囲外だった。

彼女は幼い頃から祖父母に育てられ、両親との関係はそれほど親密ではなかった。

二人目の子どもを持つ望みが絶たれ、心も目も林田グループのことでいっぱいの両親にとって、彼女はただより多くのビジネス利益を得るための道具に過ぎなかった。

政略結婚に同意したのも、必ずしも両親の命令だけではなく、祖父が一から築き上げた林田グループを守りたいという気持ちと、彼女の心の奥底に秘めた秘密があったからだ。

彼女は山崎川を好きだった。彼女は望んでいたのだ。

林田澄子が動じないのを見て。

山崎川は突然ベッドに上がり、両手を林田澄子の両側に置き、上から彼女を見下ろし、いつもと変わらぬ冷たい声で言った。

「じゃあ、澄園はどうする?」

林田澄子は突然息を詰まらせた。山崎川は澄園が彼女にとってどんな意味を持つか知っていた。

澄園は祖父が生前何年もかけて、彼女のために心を込めて日光山の山頂に造った、古風な中国式の邸宅だった。

そこのすべては彼女の好みに合わせて建てられ、祖父の全ての心血と愛情が注ぎ込まれていた。

しかし、彼女の両親は山崎川の機嫌を取るために、彼女と祖父に黙って、こっそり澄園を山崎川の名義に登録し、彼女の持参金としていた。

林田澄子の瞳の光は一瞬暗くなり、山崎川に澄園で何をするつもりかを尋ねる勇気さえ持てなかった。

心は痛みに締め付けられたが、山崎川の前で弱みを見せたくなかったので、顔は依然として波風のない清冷さを保っていた。

何か言い訳を見つけなければ。彼女は審査するような目で山崎川を見た。

「山崎川、私たちは互いに干渉せず、それぞれ自分の生活を送ると約束したわ。でも忘れないで、あなたには妻がいるのよ。そうでなければ、あなたを汚いと思って、もう二度と私に触れさせないわよ」

言い終えると、林田澄子は起き上がって服を着始めた。

彼女は心の中で思った。あの「桜」のためなら、山崎川はここまでするのか。「桜」とやらに会ってみたいものだ。

それを聞いて、山崎川は怒りを含んだ瞳で冷たく言った。

「その汚い考えはやめろ」

30分後、山崎川は林田澄子を乗せてスピードを出し、ようやく山本桜の弟の事故現場に到着した。

山崎川は終始薄い唇を引き締め、一言も発せず、全身から霜のような冷気を発していた。

ロールスロイスが停車した。

山崎川は急いで車を降り、ドアを閉める暇もなかった。

林田澄子が代わりに運転席のドアを閉めた。

現場には行き交う人が少なくなかった。

交通警察が調査記録をとり、レッカー車を指示し、救急車が負傷者の処置をしていた。

山崎川は眉間にしわを寄せ、人ごみの中を探し回った。

幾千もの人の中で彼女を探し求め、ふと振り返ると、その人は灯りがまばらになった所にいた。ついに街灯の下で孤独で無力な小柄な姿を見つけた。

彼は人ごみをさっと通り抜け、安定した力強い足取りで歩いた。

山本桜は一人で路肩に不機嫌そうに立ち、時折つま先で地面の石を蹴っていた。

山崎川が目の前に現れるのを見ると、山本桜の明るい瞳には狂喜乱舞の光が輝き、すぐに小鳥のように山崎川の胸に飛び込んだ。

「川くん!やっと来てくれた。ここには私一人で、寒くて怖かったの。あなたが来てくれて本当に良かった」

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