第53章

山崎川はマスクをつけたまま、山本桜を一瞥した。

山本桜はすぐに瞬きして言った。

「あなたを煩わせたくなかったの。でも、どうしたらいいのか分からなくて…川、助けてくれる?無理なら構わないわ。姉としての私が無能なだけだから…」

「自分を卑下するな」山崎川は沙哑した声で言った。

「俺がやる」

「あら、川、風邪引いたの?」山本桜は思わず声を上げた。

山崎川は昨夜から分かっていた。自分が殴られたことを。誰がそんな勇気を持って自分に手を出すのか、想像できた。

後で当時の状況を思い出してみると、自分が林田澄子に「不貞」を目撃されそうになったことが分かった。それが自分の本意ではなく、自分も被害...

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