第9章

『この命知らずの狂女が! 俺の名を使って外で好き勝手暴れ回るだけでも許しがたいのに、よりにもよって人前でこんな下劣な嘘をでっち上げる気か!』

 スピーカー越しに響き渡る健之介の咆哮を聞き、桃子は全身をわななかせ、その顔色を死灰を塗ったように真っ白に染め上げた。

『俺には妻も子供もいるんだぞ! その吐き気のする哀れな妄想を今すぐやめろ!』

 健之介の声には、骨の髄まで冷え切った絶情が滲んでいる。

『俺とお前の間には何もない。これ以上一言でも口走ってみろ、俺が直々にその舌を引き抜いてやる!』

 電話は一方的に叩き切られ、ツーツーという無機質な電子音が、まるで死神の足音のように響き渡る。...

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