第4章

 運転手が屋敷の入り口に車を停めたとき、あたりはすでに闇に包まれていた。出迎えた執事が私に手渡したのは、安っぽい陶器の壺だった。

「奥様。ファルコーネ様のご指示により、レオ様のご遺骨は一時的に奥様がお預かりください。明日の朝、ミア・タワーの建設予定地へ移送するため、担当者が参ります」

 私は骨壺を抱えて二階へ上がり、寝室で一晩中、ただ座り込んでいた。

 翌朝、私は骨壺を持って階下へ降りた。

 リビングでは、シルクのローブを纏ったビアンカが、ソファでミアと一緒にアニメを見ていた。私の姿を認めると、彼女の笑みがいっそう深くなる。

「お母さんが言ってたよ、その壺、今日なくなっちゃうんだって!」ミアが手を叩いてはしゃぐ。「あたしを助けてくれた証拠に、お部屋の壁に写真を飾るの!」

 私は二人を無視し、大広間へとまっすぐ歩を進めた。

「マデリン、待って」

 ビアンカが立ち上がり、ヒールを鳴らして床を横切ってくる。「あなたに見せたいものがあるの」

 彼女は携帯電話を取り出すと、ある動画を開いた。「レオが本当はどうやって死んだか、見たくない? 病院の監視カメラ映像よ。手に入れるのにかなりの大金を積んだわ」

 画面の中では、医師たちが手術室の小さなベッドを取り囲んでいた。レオの小さな体は拘束され、腕には無数の針が刺さっている。

「三度目の骨髄採取ね」ビアンカの声は明るかった。「あの子、ひどく泣き叫んでいたわ。痛みで二度も気絶したそうだけど、医者たちは止めなかった」

「ここを見て」彼女は画面を拡大した。「唇を噛み切ってる。シーツが血まみれでしょう?」

 映像越しに、レオのか細い泣き声が響く。「お母さん……お母さん……」

「あなたが居合わせてあげられなくて残念ね」ビアンカは動画を閉じ、私に微笑みかけた。「あれが、あの子の最期の言葉だったのよ」

 全身が震えた。「あなた……」

「ああ、そうそう。良いお知らせもあるの」ビアンカは一枚の写真を取り出した。「ミア・タワーの設計図よ。ダンテが言うには、基礎のど真ん中に特製のタイムカプセルを埋めるんですって。レオの遺灰と写真を入れてね」

 彼女は写真を私の手に押し付けた。「そうすれば、ミアがビルに入るたびに、自分の『お兄ちゃん』を踏みつけて歩くことになるわ。とっても有意義だと思わない?」

 私は写真を見つめる。設計図の基礎部分の中央に印があり、その横には「レオ・ファルコーネ記念カプセル」と記されていた。

 私の中で、何かがプツリと切れた。

 私はビアンカの襟首を掴み、壁に向かって突き飛ばした。「この人でなし!」

 ビアンカは悲鳴を上げたが、抵抗はしなかった。彼女の体はくずおれ、コーヒーテーブルの角に頭を打ち付けた。

 額から血が流れ落ちる。

「助けて! マデリンが発狂したわ! 殺される!」

 書斎のドアが勢いよく開き、ダンテが飛び出してきた。

 乾いた音がして、私の頬が激しく打たれた。

「マデリン! 一体何をしているんだ!? 彼女を殺す気か!」

「あの女が……レオを……」声が震えてうまく出ない。

「黙れ!」ダンテはしゃがみ込み、ビアンカの傷を確認した。「血が出ているじゃないか! マデリン、なんてことをしてくれたんだ!」

 ビアンカは弱々しくダンテの手を握った。「彼女を責めないで……。気が動転しているだけなの……。あんな映像、見せるべきじゃなかったわ……」

「映像だと?」ダンテが問いただす。

「ただの……病院でのレオの監視映像よ」ビアンカは殊勝な口調で言った。「レオがどれだけ勇敢にミアを救ったか、彼女に知ってほしかっただけなの。まさかこんな反応をするなんて……」

 ダンテの表情が曇った。私に向けられたその目は、氷のように冷たかった。

「ビアンカはお前を慰めようとしたのに、お前は彼女に暴力を振るったのか。マデリン、お前には失望したよ」

「慰めてなんかいないわ!」私は叫んだ。「あの女はあざ笑っていたのよ! レオの遺灰を基礎に埋めて、ミアに踏ませるつもりだって――」

「それがどうした?」ダンテは私の言葉を遮った。「どうせレオは、ミアを救うためだけに存在していたんだ。その遺灰がミアのビルの一部になる――これは彼にとって名誉なことだろう!」

「お前は追悼の意味を理解していないようだな」ダンテは続けた。「私が特製のタイムカプセルを設計したのは、レオが永遠にミアと共にいられるようにするためだ。これ以上の慈悲はないだろう」

 私は彼を凝視し、ふいに笑い声を漏らした。「慈悲ですって? ダンテ、あなた、あの子がどうやって死んだのかさえ知らないんでしょう?」

「もちろん知っている。事故だろう」

「事故ですって?」私はポケットからUSBメモリを取り出した。「これには厩舎の監視カメラの映像、別のアングルが記録されているわ。鞍の下に金属片が仕込まれているのが映っている――あなたがやったのよ」

 ダンテの表情が変わった。

「証拠なんてないだろう」彼は鼻で笑った。「仮にあったとしても、誰もが事故だと認めたんだ。お前に何ができる?」

「マデリン、跪け」ダンテが突然命じた。「ビアンカに謝るんだ。さっきの暴力についてな」

「お断りよ――」

 ダンテは私の肩を掴むと、折れた肋骨の上から強く押し付けた。

 激痛が走り、私はその場に崩れ落ちた。

「跪かないか。なら、無理にでもそうさせるまでだ」ダンテの声は冷酷だった。

 ビアンカは弱々しい演技で床から起き上がり、額の傷にハンカチを押し当てながら、勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 階段の上では、ミアが顔を覗かせ、クスクスと笑い声を上げている。

 私は奥歯を噛み締め、何も言わなかった。

 ダンテは私を解放すると、ビアンカに手を貸して立たせた。「病院へ連れて行く。縫合が必要だろう」

 立ち去る前、ダンテは私を振り返った。「レオの骨壺はテーブルに戻しておけ。午前九時に、建設現場の者が回収に来る」

 ドアが閉まった。私は誰もいないホールで、一人跪いていた。

 ゆっくりと立ち上がり、転がった骨壺を拾い上げる。

 行こう、レオ。出発の時間よ。

 その日の夜、ダンテから電話があった。

「マデリン、少しは落ち着いたか?」彼の声には疲労が滲んでいた。「ビアンカは三針縫ったが、君のことは責めないと言っている」

「タイムカプセルの件だが……君には理解できないかもしれないな。だが、あれは建築家の推奨なんだ。ビルの繁栄を約束するものだそうだ」

「それから、明日はちゃんと建設作業員に骨壺を渡すんだぞ。彼らが適切に処理してくれる」

「君の好きなティラミスを注文しておいた。明日届くはずだ。余計なことは考えるな。ゆっくり休め」

 私は無表情で答えた。「わかったわ」

「君はいつだって従順だったな、マデリン。レオと同じだ」ダンテは一呼吸置いた。「辛いのはわかるが、前を向くんだ。ミアにはまだ君の世話が必要なんだからな」

 私は電話を切った。

 寝室で、私はノートパソコンを開いた。

 プリンターが書類の束を吐き出す――離婚届、DNA鑑定書、病院の内部記録、厩舎の監視カメラの映像キャプチャ。

 私は一枚一枚に署名し、フォルダにまとめた。

 画面上のメールシステムは、すでに設定済みだ。

 宛先はダンテ・ファルコーネの顧問弁護士、ファルコーネ・ファミリー長老会、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、NBCニュース。

 送信予約は現在時刻から十八時間後。

 添付ファイルには全文書と三つの音声データが入っている。

 私は「確認」をクリックした。

 それから荷造りを始めた――数着の服、パスポート、銀行カード、そして小さな木箱。

 その木箱の中には、今日こっそりと取り分けておいた遺灰の一部が入っている。多くはないけれど、あの子を連れて行くには十分だ。

 午前二時。私は小さな木箱を抱え、屋敷を出た。

 空港に到着すると、VIPラウンジのテレビがニュースを流していた。「ファルコーネ家の跡取りダンテ・ファルコーネ氏、愛娘ミア嬢の全快を祝い、婚約者のビアンカ・ドルッチ嬢に十億円の『蒼い月光』ダイヤモンドネックレスを購入……」

 画面の中で、ダンテが自らビアンカの首にネックレスをつけていた。二人は親密に抱き合っている。

 十億円のネックレス。なのにレオの葬儀には、最低限の金しか出さなかったくせに。

 搭乗案内が響いた。私は最後に一度だけ、街を見下ろした。

「せいぜい楽しんで、ダンテ・ファルコーネ。残された十八時間をね」

 レオの入った小さな木箱を、胸に強く抱きしめる。「お母さんが本当のお家に連れて行ってあげるからね、レオ」

 十八時間後。ファルコーネ邸の主寝室で、ダンテはビアンカに体を押し付けていた。腰を愛撫しながら口づけを落とす。ビアンカが甘い声を漏らした。

 その時、執事が血相を変えて部屋に飛び込んできた。

「旦那様! 大変です! 奥様がいなくなりました!」

 ダンテが弾かれたように顔を上げる。「何だと?」

 執事の声が震えていた。「奥様が、親子鑑定書を残していかれました――レオ様こそが、旦那様の実のお子様でした! ミア様は旦那様の子ではありません。父親は、運転手のトニーです!」

「それに、ミア様は病気などではなかったのです。治療記録はすべて捏造でした!」

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