第73章

ルカの手が伸びてきて、私の手首を万力のように掴んだ。

周囲の喧騒も、耳をつんざく音楽も、この瞬間だけは遠くへ退いたようだった。鼻孔をくすぐるのは、彼が纏ったウィスキーの芳醇な香りと、冷ややかなコロンの香り。

「イザベラ……」

彼が低く呻く。その響きはまるで、貝の中に入り込んだ一粒の砂のようだった。吐き出したくても痛くて、けれど決して手放そうとはしない、執着に満ちた声。

「したくないんだ……」

続く言葉は「離婚」だったのだろうか。あまりに微かな声で、聞き間違いかと思った。

「ベラ!」

キャレンが心配そうに私を引き寄せ、警戒心を露わにしてルカを睨む。

「マルクス兄さんが来るわよ!...

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