第212章 どこも安全ではない

上村サラ POV

 安全で目立たない入り口を探して、ホテルのエントランスをこっそりと通り過ぎようとしたその時だ。ヒュッ、と風を切る音がして、石が私の耳元を掠めた。

 驚きのあまり、私は反射的に身を屈める。背後の壁で、硬いものが砕ける音がした。振り返ると、興奮と狂気が入り混じった表情の若者たちが、こちらに向かって駆けてくるのが見えた。

「Hey, American!」

 背筋に冷たいものが走る。その時だった。すぐ近くの闇の中から、押し殺したような声が聞こえた。

「マダム! こっちだ!」

 ホテルの死角、通用口のドアがわずかに開いている。考える暇などない。私は全力で駆け出すと、魚のよ...

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