第7章

白石千夏は首をかしげ、大声で言った。

「私のママはすごく優秀なんだから!それに、あなたより百倍も美しいわ!」

そう言い終わると、白石千夏は一目散に走り去った。

これに木下明美は激怒し、追いかけようとしたが、山本理恵に止められた。

「何をしているの?記者がいることを忘れないで!」

「今のガキの言ったことを聞いたか?!本当に、あの子に私の手段を見せてやる!」

「子供相手に何をムキになってるの?」山本理恵は彼女のお嬢様気質にうんざりしながら言った。

「服が汚れてるわ、早く着替えに行きなさい」

木下明美はぶつぶつ言いながらトイレに向かい、人混みの中で見覚えのある姿を見つけた。

その女性は白いTシャツにデニムのショートパンツを履き、白くて長い脚が目立ち、群衆の中でも際立つ存在感を放っていた。

白石沙耶?!

木下明美は考える間もなく、急いで駆け寄り、その女性をトイレに引きずり込んだ。

「白石沙耶、まだ生きてたの?!死んでなかったの?!」

白石沙耶が痩せていなければ、木下明美は彼女を引きずることはできなかっただろう。

白石沙耶も木下明美に会うとは思っていなかったが、冷静に言った。

「人違いです」

木下明美は白石沙耶の顔に嫉妬して狂いそうになっていた。五年ぶりに会っても、彼女を間違えることはなかった。

「違う!あなたは白石沙耶だ!灰になっても見分けられるわ!」

木下明美は白石沙耶の手首を強く握りしめ、悪意に満ちた声で言った。

「五年も経って、突然現れたのは何の目的があるの?!」

白石沙耶は木下明美の手を強く振り払った。

「言ったでしょ、人違いだって!私は新井萌子よ!」

木下明美はまだ疑っていた。声までそっくりな人がいるなんてあり得るのか?

頭の中に先ほど見た南條修司に似た子供の姿が浮かんだ。五歳くらいの子供で、その出来事の時期を思い出すと……

白石沙耶は木下明美と争うのが面倒になり、振り返って立ち去ろうとした。

「白石沙耶、待ちなさい!この五年間、どこに行って何をしていたのか、全部話しなさい!」

木下明美は数歩前に出て再び立ちふさがり、冷酷な目で白石沙耶を睨んだ。

白石沙耶の携帯が鳴り続けていたが、木下明美は諦める気配がなかった。白石沙耶は冷たく言った。

「邪魔しないで、大物スター、あそこに誰かが写真を撮ってるわよ」

木下明美はトイレの中で誰かが写真を撮っているのを見て、仕方なく手を放した。

白石沙耶は携帯を取り出し、二人の子供の写真が表示された画面を開いた。

着信表示が森川優子であることを確認し、急いで電話をかけ直すと、森川優子が子供がいなくなったと言うのを聞いて、彼女は驚き、慌てて外に飛び出した。

木下明美は鋭い目で白石沙耶の携帯の画面に映る二人の子供を見て、見覚えがあることに気づいた。

嫌な予感が胸に湧き上がり、木下明美は恐る恐る追いかけたが、白石沙耶の姿はもう見えなかった。

まさか、白石沙耶があの夜の後、子供を産んだのか?

白石沙耶は避妊薬を飲まなかったのか?

あの時、彼女は確かに白石沙耶が薬を飲むのを見届けたはずだ。

木下明美は自分を欺くように首を振った。そんなはずはない、白石沙耶とあの南條修司に似た子供には何の関係もないはずだ。

「明美、何をぼんやりしているの?着替えに行かないの?早く車に戻って着替えなさい」

マネージャーの山本理恵がやって来て、木下明美の汚れた服と表情管理を忘れた顔を見て、急いで言った。

「今は人気スターなんだから、影響を考えて」

木下明美は少し冷静になり、山本理恵と一緒にバンに乗り込んだ。

車窓の外の記者を見て、何かを思い出したように急いで言った。

「早く!今日来ていた記者に連絡して、写真を全部止めさせて!」

山本理恵は不思議そうに尋ねた。

「なぜ写真を公開させないの?これは良い宣伝の機会なのに、理由を教えてくれないと」

スターライト芸能事務所のトップマネージャーとして、山本理恵は宣伝が得意で、多くの芸能人を売り出してきた。

木下明美も彼女が手掛けた一人だったが、五年前に南條修司と関係を持ってからは、誰も彼女を無視することはできなかった。

撮影現場では遅刻早退、ファンミーティングではファンに冷たい態度を取り、バラエティ番組では同じく人気の女性スターを故意に攻撃するなど……

山本理恵は何度も彼女の尻拭いをしてきたが、どうにもならない時は南條修司が出てきて、誰もが顔を立てるしかなかった。

南條修司は見た目は素敵だが、目が節穴だとしか思えない。

一体、木下明美の何が気に入ったのか。

木下明美は五年前のことを山本理恵に話すわけにはいかず、冷たく言った。

「私は子供が好きだから、こんな方法で宣伝したくないの」

この五年間、彼女は南條修司の彼女という立場を利用して、下川で成功を収め、良い仕事を次々と手に入れてきた。

演技力はないが、スターライト芸能事務所のトップスターで、誰もが彼女に敬意を払っていた。

もし南條修司があの子供の写真を見て疑念を抱き、五年前のことを調べ始めたら…

万が一に備えて、まず白石沙耶を見つけて真相を確かめる必要があった。

山本理恵は木下明美の不安そうな様子を見て、特に問い詰めることはなかった。彼らはただの仕事仲間に過ぎなかった。

「私のコネを使って、記者たちの写真は公開されないようにするけど、」山本理恵は言葉を続けた。「今は情報社会だから、空港で写真を撮った人が多いから、他の人が写真を削除するかどうかは保証できない」

木下明美の顔色が変わり、厳しく言った。

「そんなことはどうでもいい!それはあなたの責任よ、ちゃんとやらないと失職だわ!忘れないで、私は南條修司の彼女なのよ。もし一枚でも写真が公開されたら、下川で生きていけなくしてやる!」

山本理恵の目が冷たくなり、耐えながら言った。

「わかりました。時間も遅いので、ホテルに戻って休んでください。明日の朝は『雷鳴2』のオーディションがあります。あなたはすでに内定しているけど、記者が来るから遅刻しないように」

「うるさい!」

木下明美は苛立って言った。

「降りなさい!」

山本理恵は驚いて言った。

「何?」

「早く写真の件を解決しに行きなさい、私を煩わせないで!」

木下明美は山本理恵を車から追い出し、「何もできないなら、南條修司に頼んであなたを片付けてもらうわ!運転して!」

去っていくバンを見つめながら、山本理恵の冷静な顔は冷たく変わった。

……

空港から森川優子の家まではわずか二十分ほどの道のりで、白石沙耶は外の見慣れた景色を見ながら、様々な感情が胸に込み上げてきた。

五年前の出来事がまるで昨日のことのように思い出される。父親が妻子を捨て、浮気相手が家に入り込み、母親が病死した。

その時、彼女は手術費を集めるために木下明美の言葉を信じ、見知らぬ男と一夜を共にしたが、二つの小さな命を宿すことになるとは思わなかった。

可愛い双子を見て、一夜を共にした男もきっと素晴らしい容姿をしているに違いない。

ただ、木下明美は確かに五十代の男だと言っていたのに、なぜ?

あの夜、男の体力は非常に旺盛だった。

思い出すたびに、足が震え、彼女にとってはトラウマとなっていた。

五年間、彼女を追いかける優れた男性は少なくなかったが、すべて断ってきた。時間が経つにつれ、彼女を知る人々は彼女に心理的な問題があると噂するようになった。

それでも、彼女はついに帰国した。

今回の帰国は、母親の不審な死の真相を突き止めるためでもあり、彼女のものを取り戻すためでもあった。

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