第五十四章

その瞬間まで、脳が自ら記憶を隠す能力を持っているなんて知らなかった。それは持ち主が極度の悲しみに打ちひしがれて心が干からびてしまわないようにするための自己防衛本能だと聞いたことはあったけれど、なぜ勝手にそんなことをするのか理解できなかった。

けれど、トラウマ的な体験を無理やり見せつけられて、私はその理由を悟った。

もしあの出来事を、その後に起こったすべてのことと一緒に記憶していたなら、私はきっと自ら命を絶っていただろう。結果がどうなろうと構わずに。

今、私は復讐に飢えていた。ジュリアンに対してだけでなく、彼が連れてきたアルファ・ヘンリーに対しても。私がまた逃げようとしたところを捕まえ、群...

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