第16章

悠が今日ここへ来たのは、直樹と会う約束をしていたからだ。

だが、どうやら今日はその約束も果たせそうにない。

「えー、もう帰るの? ついでに乗せてってよ……」

「篠……」

篠は悠の車に便乗しようとして、助手席のドアを開け、腰を下ろす前だった。

エレベーターホールのほうから、赤い影がしずしずと歩いてくる。

「お父さん、あなたが隠したんじゃないでしょうね?」

「不二若奥様、物を言うなら証拠を出してくださいよ。それ、言いがかりって言わない?」 

篠は姿勢を整え、不二雪枝へ薄く笑いかけた。

不二雪枝は直樹の元妻だ。直樹は結婚と離婚を三度も繰り返した末、やはり元の妻がいちばん使い勝手が...

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