第1章

石原真奈美の視点

ドアに着く前から、その声は聞こえていた。喘ぎ声。それも、他の何物とも聞き間違えようのない、性的な、息の弾むような声だ。渡部拓也のマンションの外、廊下で私はぴたりと足を止めた。手には合鍵を握りしめている。

いや。お願いだから、やめて。

しかし、その声は大きくなるばかり。私は仕事用のヒールを履いたまま、完全な馬鹿みたいにそこに突っ立っていた。バッグが肩に食い込む。会社で十二時間、スカイタワーの設計を仕上げて、家に帰ってきた私を待ち受けていたのがこれだ。疲れすぎてまともに頭も働かないのに、今からこんなクソみたいな事態に対処しなくちゃいけないなんて。

本来なら、立ち去るべきだった。自分の家に帰り、明日電話して、普通の人みたいにメッセージで別れを告げるべきだったのだ。でも、私はどうしようもなく腹が立っていた。頭が追いつくより先に、指が鍵を開けていた。

ドアが勢いよく開く。

拓也、私の彼氏。そして、見たこともない知らない女。私たちが付き合い始めてからというもの、半分は映画を見たり、くだらないことで口論したりして過ごした、あのソファの上で。女の脚が拓也に絡みつき、彼の裸の背中が私に向けられている。二人とも夢中になりすぎて、私がそこに立っていることにさえ気づいていない。

「拓也」

私の声は平坦で、死んだように響いた。二人は、私が今にもブチ切れそうでなければ滑稽に思えただろうというくらいの速さで飛びのいた。女は顔を真っ赤にして自分の服を掴み、拓也は若くて、愚かで、罪悪感に満ちた顔でジーンズを慌てて穿いた。

「真奈美! なあ、これはその――」

「いい」私はテーブルの上に合鍵を投げ捨てた。「もう終わりよ」

「いや、待ってくれ、話を聞いてくれ!」彼はズボンのジッパーを上げながら、私の方へよろめいてきた。「寂しかったんだよ、わかるだろ? 君はいつも仕事で、俺にかまう時間なんてないし、俺はただ――」

「他の誰かとヤる必要があったってわけ?」思わず笑ってしまった。自分でも意地の悪い声だと思った。「最高の解決策ね、拓也。本当に大人なこと。これで終わり」

「真奈美、頼むから――」

「この鍵を使うのはこれが最後。ううん、もう二度と使わない。せいぜいお幸せに」

私は歩き去った。口をぽかんと開けたまま、きっとまだこの状況を魔法のように丸く収める言い訳を考えようとしている彼を、そこに置き去りにして。

私が部屋を出てから二時間後、最初のメッセージが届いた。「真奈美、お願いだ。本当にごめん。話せないかな?」

私はそれを削除した。

その週の終わりまでに、メッセージは三十七件に達していた。謝罪の言葉もあれば、非難の言葉もあった。「俺を突き放したのはお前の方だろ。俺にかまう時間がなかったじゃないか。悪いのは俺だけじゃない」中にはただ悲しげなものもあった。「愛してる。こんなことしないでくれ」

八日目に、私は彼の番号をブロックした。

九日目に、彼は新しい番号を手に入れた。

友達は彼を無視するように言った。そのうち飽きるから、と。中島莉々は、拓也みたいな男はいつもそうだと言った。若くて、未熟で、欲しいものが手に入るのが当たり前だと思っているタイプ。「そのうち他の女を見つけて夢中になるって」と、彼女は酒を飲みながら請け合った。「時間の問題よ」

でも、時間は何の助けにもならなかった。携帯が鳴るたびに、胃がずしりと重くなる。仕事から帰るたびに、彼が車のそばで待っていないか、後ろを振り返って確認した。自分のアパートでもくつろげない。彼がドアの前に現れたらどうしよう?

私は疲れ果てていた。ただ疲れているのではなく、心底消耗していた。仕事に没頭し、オフィスに遅くまで残り、誰も頼んでもいないのにスカイタワーのプロジェクトの追加修正を引き受けた。元彼が少しずつ正気を失い、私の正気まで道連れにしようとしているという事実から目をそらすためなら、何でもした。

逃げ出す必要があると、ようやく自分に認めるまで一ヶ月かかった。拓也からだけじゃない、そのすべてから。星見市から、仕事から、胸の中に石のように居座る絶え間ない不安から。

スカイタワーのプロジェクトが木曜日に終わった。上司は私のデザインを褒め、プレッシャーの中で素晴らしい仕事をしたと言ってくれた。私は礼を述べ、自分のデスクに戻ると、すぐに青葉市行きの航空券の値段を検索した。

二年前、友人の独身最後のパーティーで一度だけ行ったことがある。あの街全体が、週末だけは別人になってもいい、という許可を与えてくれているような気がしたのを覚えている。悪い決断をして、それについて謝らなくてもいい、と。

今の私には、それが完璧に聞こえた。

自分を説得して思いとどまらせる前に、航空券を予約した。金曜日を休み、さらに翌週まるまる一週間休みを取った。有給は溜まっていた。私は休みを取ることがなく、常に出世の階段を上ること、自分を証明することに集中しすぎていたのだ。上司は何も聞かずにそれを承認してくれた。

金曜の午後、私は飛行機に乗っていた。

ホテルは正直なところ私の懐事情では手が出ないほど高級だったが、気にしなかった。チェックインを済ませ、荷物を解き、長いシャワーを浴びてから、しばらく鏡の前に立って自分を見つめた。

いつからこんなに疲れた顔をするようになったんだろう?

体重が減っていた。良い痩せ方ではなく、「ストレスでまともに食事ができない」タイプの痩せ方だ。目の下にはコンシーラーでも隠しきれない隈ができていた。何週間もガス欠のまま走り続けてきた人間のように見えた。

まあいいわ。それも今夜で終わり。

黒のスリップドレスを着て、いつもより濃いめに化粧をし、ホテルのバーへと向かった。

その場所は、私が必要としていたすべてだった。薄暗く雰囲気があり、見えないスピーカーからはソフトなジャズが流れている。バーカウンターに席を見つけ、ウォッカトニックを注文し、そしてただ……息をついた。

拓也はいない。仕事もない。私を知る人も、私に何かを期待する人もいない。

半分ほど飲み終えたところで、彼に気づいた。

彼は数席離れたところに一人で座り、まるで答えでも持っているかのようにウイスキーのグラスをじっと見つめていた。座っていても背が高いのがわかる。黒い髪、袖を肘までまくり上げた白いボタンアップシャツ。良い腕をしている。いや、実際、すごく良い腕だ。シャープな顎のラインは、昔の映画スターを思わせる。

彼は高価そうに見えた。身なりが整っている。自分の人生をちゃんと把握している人間、という感じだ。

拓也とは正反対。

いや、この人を拓也と比べるのはやめよう。

でも、どうしようもなかった。この男は大学のパーティーにすら行ったことがなさそうだし、ましてやまだ学生の誰かと付き合ったことなどなさそうだ。彼にはきっとちゃんとした仕事があって、ちゃんとしたアパートがあって、もしかしたら老後の計画さえ立てているかもしれない。大人のやることだ。

彼がゆっくりとウイスキーを一口飲むのを、私は見ていた。彼は携帯を見ているわけでも、バーテンダーの気を引こうとしているわけでもない。ただそこに座って、自分の世界に没頭している。

彼も何かから逃げているみたい。

私が行動を起こしたのは、そのせいかもしれない。ある種の共感。あるいは、ウォッカが血を温め、私を大胆にさせただけかもしれない。いずれにせよ、深く考える前にグラスを手に取り、バーカウンターを移動した。

「一人で飲んでるの?」

彼が顔を上げ、私は危うく気後れしそうになった。彼の瞳は黒く強烈だったが、その奥には何か疲れたものが宿っていた。彼は一瞬私を吟味し、それから口元に小さな笑みを浮かべた。

「ああ。君も?」

「だったわ」私は彼の隣のスツールに腰を下ろした。「浮気したクソみたいな元カレからの自由を祝ってるところ。あなたは?」

彼の笑みが変わり、少し苦々しいものになった。「考えたくないことを、忘れようとしてるところだ」

私はグラスを上げた。「それに乾杯」

彼は私のウォッカトニックに、自分のウイスキーグラスを軽く当てた。「乾杯」

私たちは話し始めた。最初は当たり障りのない話だ。どこから来たのか、青葉市に来た目的は何か、といった安全な領域。しかし、それから話は深まっていった。私は拓也のこと、メッセージのこと、自分の街で息ができないような気がしていたことを話した。

「それで青葉市に逃げてきたと」と彼は言った。

「『戦略的撤退』と言ってほしいわ」

彼は笑った。すると彼の表情が一変した。「それもそうだな」

彼の声は低く滑らかで、たとえ四半期ごとの予測のような退屈な話をしていても、ずっと聞いていたくなるような声だった。そして、私が話しているとき、彼はちゃんと注意を払ってくれた。さらに質問を重ね、話を遮ったり、携帯をチェックしたりしない。

私たちは話し続けた。どれくらいの時間だったか分からない。私が一杯目を飲み干し、もう一杯注文するのに十分な時間。彼がようやく自分の名前が悠斗だと教えてくれ、私が自分の名前を教えるのに十分な時間。バーカウンターの下で私たちの膝が触れ合い、どちらもそれを離そうとしないのに十分な時間。

ああ、この人が欲しい。

その思考はあまりに明確で突然で、ほとんど恐怖を感じるほどだった。

「ねえ」言葉は、我慢する前に口から出ていた。「部屋、取らない?」

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