第1章
クリスタルのシャンデリアが幻想的な光を放つ、星野芸能の豪華なパーティーホール。『鉄の心』の打ち上げパーティーが盛況に行われていた。スーツ姿の投資家たちはシャンパンタワーの周りに集まり、流行のブランドに身を包んだ若手俳優たちはクラフトビールのバーカウンターの近くに立っている。
私は半分ほど空になったクラフトビールのグラスを握りしめ、人だかりの端で居心地悪く佇んでいた。
「またコネ入社よ」背後からひそひそと噂話が聞こえてくる。「平野さんの腰巾着で、コネで入ったって」
「L市芸術大学の演劇学科卒らしいけど、結局ただのADどまりなんでしょ」
「まあ、平野さんが妹に甘いだけよ」
グラスを握る手に力がこもり、指の関節が白くなる。コネなのは認める。でも、私が足手まといじゃないって証明しなきゃ。
「お嬢さん、もっと強いものを?」バーテンダーが私の緊張に気づいたようだ。
「強いのお願いします」私はビールを一気に飲み干した。「景気づけが必要なの」
バーテンダーがウィスキーを差し出す。私はそれをあおった。焼けるようなアルコールが、瞬時に神経を燃え上がらせる。
「絵梨! なんでこんなところに隠れてるのよ」平野真矢がシルバーのドレスをひるがえしてやってきた。「ほら、監督とか紹介してあげるから」
「あんたのお情けは要らない」私は空のグラスを揺らした。
「馬鹿なこと言わないで。親友でしょ」真矢は眉をひそめた。「それに、あなたはすごい女優なんだから。あのハムレットの演技――お兄ちゃんだって言ってたわよ――」
「あんたのお兄ちゃんは、私のことなんて知りもしないでしょ」私はもう一杯、と合図を送る。「彼にとって、私はいてもいなくてもいいただのADよ」
アルコールが私の舌を滑らかにし、視界をぼやけさせる。
「絵梨、飲みすぎよ」真矢が心配そうに私を見つめる。
「平気よ」私はグラスを掲げた。「『鉄の心』の成功に乾杯! そして、古き良きコネ社会に乾杯!」
その時、パーティーホールの向こう側から、低い笑い声が聞こえた。その音をたどると、彼がいた。
平野涼真はバーカウンターに寄りかかり、何人かの投資家と話している。白いシャツは襟元のボタンが無造作に外され、袖は肘までまくり上げられている。背が高く、肩幅も広い。話すとき、時折下唇を噛む癖がある――それが、妙に色っぽかった。
彼が横顔を見せ、微笑むのを私は見つめた。高い頬骨、彫りの深い瞳。その顔立ちはシャープだ。とどめは、グラスの持ち方だった――長く、節くれだった指。
「もう……」私は独りごちた。「この人、反則すぎるでしょ」
アルコールが私の職業病の引き金を引いた。こういう男こそ、生まれながらの主役なのだ。近づきたいのに、恐れ多くて近づけない、そんな危険なカリスマ性を放っている。
「絵梨?」真矢が私の視線を追った。「もしかして、お兄ちゃんのこと見てる?」
しかし、もう彼女の声は聞こえなかった。酔った私の頭の中では、平野涼真はまさに私が研究してきたキャラクター――冷徹な社長、完璧な外面、複雑な内面――そのものだった。これは、メソッド演技の絶好の研究機会じゃない!
私はふらつきながら涼真の方へ向かった。脳裏に演技の先生の言葉が響く。『役の世界に完全に没入しなさい。演技と現実の境界を曖昧にするのです』
「皆様、お話の途中失礼します」私は涼真の前にぬっと現れた。投資家たちが驚いた顔で私を見る。
涼真が振り返り、その射抜くような視線が私の顔に注がれた。「君は?」
「演技の研究をしています」私は真顔で言った。「スーパーヒーロー映画における、主役級キャラクターの分析です。あなたは完璧な研究対象ですね」
投資家たちは顔を見合わせる。涼真は片眉を上げた。「失礼、何ですって?」
「あなたの微表情は実に興味深いです」私は美術品を鑑定するように、彼の周りをぐるぐると回り始めた。「顎のラインの角度、眼差しの深さ、そしてこの――」
私は不意に手を伸ばし、涼真の胸に触れた。
「なっ、何をするんだ!」涼真は驚いて後ずさった。
「リラックスしてください。ロマンスのサブプロットにおける、ケミストリーの構築を研究しているんです」私は酔っぱらいながら説明した。「あなたの呼吸パターンは機械的すぎます。もっと自然にしなければなりません」
私は涼真の襟首を掴んで、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。投資家たちの呆然とした視線を浴びながら、私は「没入型演技エクササイズ」を開始した。
「戦闘シーンでのボディコンタクトはこう――」私の手は涼真の胸の上をさまよった。「そしてロマンティックな緊張感を高めるには、適切な身体的ケミストリーが必要で――」
彼の高そうなシャツが、私の「研究」によって引き裂かれ始めた。
「やめろ!」涼真が私を突き放そうとするが、私は完全に役に入りきっていた。
「あなたのキスの角度は全然ダメ!」私は真剣に指摘し、両手で彼の顔の向きを直した。「適切なライティングを得るには、四十五度の傾きが必要なの!」
私はつま先立ちになり、涼真の首筋にいくつもの痕跡を残していく。
「この呼吸パターンなら正しいわ」私は満足して一歩下がった。「これであなたのキャラクターはもっと説得力が増した」
その一角は、水を打ったように静まり返った。投資家たちは、この馬鹿げた「演技指導」に呆然と見入っている。
涼真の白いシャツはズタズタに破れ、胸には赤い跡がつき、髪はまるで激しい戦闘を終えたかのように乱れていた。
「……ちょっと、身なりを整えてくる」彼は急いでその場を去り、私一人が取り残された。
「待って!」私は数歩追いかける。「まだフィードバックをもらってないわ! 私のメソッド演技の研究には、それが不可欠なの!」
しかし、涼真はすでに人混みの中に消えていた。
私は混乱して瞬きをした。アルコールのせいで記憶が曖昧だ。何か演技の練習をしたことは覚えているが、具体的に何をしたのか……。
「絵梨!」真矢が青ざめた顔で駆け寄ってきた。「お兄ちゃんに何てことしたのよ!?」
「研究……キャラクター……主役……」私は気だるげに手を振った。「もう帰る。明日も仕事だし」
私はふらふらとパーティーホールを後にした。自分が投下したゴシップ爆弾には、まったく気づかずに。
翌朝、カーテンの隙間から差し込む厳しい日差し。けたたましく鳴り響くスマホの着信音で私は叩き起こされた。二日酔いで頭が爆発しそうだ。
「誰よ、こんな朝早くから……」私は手探りで通話ボタンを押した。「もしもし?」
「絵梨! やっと出た!」受話器の向こうから、真矢の切羽詰まった声が聞こえる。「昨日の夜、お兄ちゃんに一体何したの!?」
「何って?」私は体を起こし、昨夜の記憶の断片を繋ぎ合わせようとした。「私……何かキャラクターの研究をしてたような……」
「覚えてないの!?」真矢の声が一段高くなる。「絵梨、スタジオ中があなたとお兄ちゃんの噂で持ちきりよ!」
「なんて言ってるの?」二日酔いが一気に吹き飛んだ。
「今朝、お兄ちゃんがキスマークと引っ掻き傷だらけで出社したのよ! みんな、どの女優が社長を攻略したのかって噂してる!」
私はスマホを落としそうになった。「何だって!?」
「噂話がすごい勢いで広まってるの! 『銀幕の栄光賞』にノミネートされたばかりの女優だって言う人もいれば、どこかのメソッド演技狂だって疑ってる人もいる!」
「最悪……」私は頭を抱えた。「私、昨日の夜、一体何をしでかしたの?」
「お兄ちゃんが会いたいって」真矢の口調が真剣なものに変わる。「今すぐ、即刻、オフィスに来て」
「私に会いたいって?」私の声が震えた。「クビにされる? 訴えられる?」
「わからない」真矢は一瞬ためらった。「でも、彼の表情からすると……絵梨、覚悟しておいた方がいいわよ」
電話を切った後、私はベッドに座り込んだまま、昨夜の記憶の断片を必死で思い出そうとした。たくさん飲んだこと、涼真を見たこと、研究がどうとか言ったこと……。
でも、その後に何が起こったのかは、全く思い出せなかった。
「完璧ね」私は自嘲気味に笑った。「自分がどうやって墓穴を掘ったのかさえわからないなんて」
私は急いで身支度を整えた。不安が胸を締め付ける。真矢の反応からして、私はとんでもないヘマをやらかしたに違いない。しかも、相手はこれまでほとんど口も聞いたことのない、一流のプロデューサーの平野涼真だ。
最悪なことに、今や会社中が私たちのゴシップで持ちきりになっている。
鏡に映る青ざめた自分の顔を見て、深呼吸する。「津崎絵梨、あんた、今回は本当にやりすぎたわね」
私を待っているのが解雇通知なのか、訴状なのか、それとももっと最悪な何かか、見当もつかない。しかし一つだけ確かなことがある――私のスタジオでのキャリアは、ここで終わるかもしれない。
そしてそれはすべて、私の忌々しいメソッド演技という職業病のせいだった。
