第21章

まったく……ワーカホリックね。

古江直樹は何故か苛立ちを覚え、手に持っていた名著をテーブルの上にパタンと投げ捨てて、立ち上がって部屋を出た。

そのパタンという音に、江崎玲子は胸がきゅっと締め付けられた。

上司の機嫌を損ねてしまったら、クビになってしまうのではないか?

そのとき、廊下から田中さんの声が聞こえてきた。「古江さん、林澤さんがお腹の調子が悪いって、ずっと痛がっています」

続いて、古江直樹の急ぎ足の足音が聞こえた。

江崎玲子は内心ほっとした。この彼女さんの具合が悪くなったのは、本当にタイミングがいい。でなければ、この夜は耐え難いものになっていただろう。

しばらくすると、ま...

ログインして続きを読む