第62章

朝、佐藤悟は松本絵里を職場まで送っていった。

運転手の森さんが車を停めるやいなや、松本絵里は飛び降りようとしたが、佐藤悟に手首を掴まれて引き留められた。絵里が振り返ると、悟は人畜無害な、どこまでも純粋な瞳で彼女を見つめ返した。

「どうしました?」

絵里は彼に何か用事があるのかと思った。

「絵里、このまま行くつもりか?」

悟が問う。

絵里は自分の身だしなみが悪いのかと思い、サンバイザーの鏡を下ろして確認した。メイクは完璧だ。問題ない。

「行ってきます。また夜にね」

絵里は悟に別れを告げた。

だが、悟は彼女の手を握ったまま放さない。

「絵里、何か忘れてないか?」

絵里はうつ...

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