第75章

松本絵里は、佐藤悟のことをまるで暗愚な暴君のようだと内心で毒づきながら、足早に歩を進めていた。彼女は夏川卿から逃げ出したかったのだ。あの少女はあまりにも騒々しい。体力においても気力においても、今の松本絵里には彼女の相手をする余裕などなかった。

「危ないよ」

ひたすら歩くことに集中していた松本絵里は、不注意にも通行人にぶつかってしまった。その人物は彼女の体を支え、親切に注意を促してくれた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。急いでいたもので、お怪我はありませんか……」

「お姉さん、貴女ですか?」

ぶつかった相手の青年が、驚きの声を上げた。

背の高い男の子だった。松本絵里の視界にはまず彼...

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