第53章

それは、久方ぶりの口づけだった。

だが二人にとっては、ひどく他人行儀で、見知らぬ行為のような感触だった。

唇の隙間から酒が流れ込んでくる。

芳醇な香りに混じって、酒とは異なる一筋の香りが鼻腔をくすぐった。

唐突に、山口洸人が山下麻友を突き飛ばした。

彼女はよろめき、ソファに無様に腰を落とした。口元にはまだ酒の滴が残っている。

それでも彼女は頑なに彼を見つめ、問いかけた。

「これで、助けていただけますか?」

「……お前を見くびっていたな」

麻友には理解できなかった。

彼の言う通りにしたはずだ。なのに、彼は喜ぶどころか、どこか腹を立てているように見える。

なぜ?

「あなた...

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