第12章 あなたはいったい誰?

トイレの窓がかすかに揺れ、闇が一筋、幽鬼のように床へ落ちた。

冷えた深い視線が、いきなり胸を貫く。結城明臣が、いつの間にか彼女の背後に立っていた。彼は有無を言わせず手首を掴み、硬い力で締め上げる。振りほどこうにも、びくともしない。

眉も骨格も強く、存在感がやけにくっきりしている男だった。瞳は冷たい黒――墨を溶かしたような濃さ。目尻がわずかに下がっていて、誰を見ても距離を取るような冷淡さが滲む。

結城明臣は手を放した。声だけが少し柔らぐ。宇佐美樹奈へ視線を落とした瞬間、そこには薄い嫌悪が混じっていた。

「今ここで殺したら面倒だ。先に行かせろ」

水上伊鶴は握っていた刃物を引いた。宇佐美...

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