第5章
「どこにも行かせない」
玄関ドアを塞ぐように立つ大地さんの声は、鋼のように硬質だった。その長身が、戸口を完全に埋め尽くしている。
「美月。大人として、ちゃんと話し合おう」
彼が口にした『大人』という言葉の響きに、肌が粟立った。
私が動かずにいると、彼は一歩近づき、私のバッグに手を伸ばした。「それを置け」。声からは優しさが消え失せ、代わりに私を階段へと一歩後ずさらせる何かが宿っていた。
「わかったわ」と私は吐き捨て、バッグを彼の足元に落とした。「でも、これで何かが変わるわけじゃない。私は出ていくから」。彼は私のバッグを拾い上げ、家政婦に渡しながら冷たく微笑んだ。「それは、どうか...
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