第5章
あのささやかな賭けから三日後、高峰舞台社が『ロミオとジュリエット』の新作公演でキャストを募集していると聞いた。ジュリエット役――それはまるで、天が差し伸べてくれた一筋の光のようだった。
私は自分を証明する必要があった。芦原静香は誰かの引き立て役ではないと、皆に見せつけなければならなかった。
午前九時半、私は青葉区のオーディション会場に到着した。声帯に巻かれていた包帯はとうとう外れ、まだ少し痛みは残るものの、歌に影響はないだろう。シンプルな黒いドレスをまとい、髪は低い位置でシニョンにまとめた。プロフェッショナルでエレガント、それでいて頑張りすぎていない装いだ。
会場はすでに、様々...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
縮小
拡大
