第59章 音楽の才能

橘硯は確かに音楽に疎く、自身が習ったいくつかの楽器も腕前はそこそこといった程度だった。

この家で音楽の才能に恵まれているのは、三男の橘時也を除けば青山希くらいのもので、他の橘家の子供たちにとって、音楽とは級位認定試験の課題曲を正しく弾ければそれでいい、というものだった。

橘詩音も当然そのレベルであり、故に名家の子供たちの間では、互いの芸事を比べ合うようなことはしない。

理由は簡単だ。皆が習ったことのあるものであれば、比べても大差ない。もし本当に才能のある者に当たってしまえば、かえって恥をかくだけだからだ。

そして今回、橘硯は完全に油断していた。彼の認識では、青山希は幼い頃から外で育った...

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