第6章 バラエティ初出演
タクシーはすぐに団地の入り口に停まり、青山希は車から降りると、ついでに団地の入り口にあるスーパーで野菜を少し買って家に持ち帰った。
自分のことは自分でしっかり面倒を見なければ。何と言っても体が資本だ。どんなことがあっても、きちんと食事を取らなくては。
翌日、番組制作チームは今回のバラエティ番組の放送開始予告を出し、出演するゲストのリストを直接公表した。前世と違うのは、彼女と橘陸の名前が加わっていることだ。
前世では斎藤徹はシークレットゲストとして登場したため、番組が放送されるまで、彼がこの番組に参加することを知る者はいなかった。
この点については、青山希は意外に思わなかった。
番組制作チームの公式発表が投稿されるやいなや、すぐさま大きな話題を呼んだ。他の数名のゲストのファンが自分のアイドルを応援するコメントを除けば、コメント欄の風向きは二つしかなかった。
一つは青山希を狂ったように叩くもの、もう一つは橘詩音を褒め称えるものだ。
青山希がヨガをしていると、携帯電話が狂ったように通知音を鳴らし続けた。すべて彼女をメンションするものだった。
【今期の『素晴らしき日々』、すごく楽しみにしてたのに、青山希を見て期待値が半分になった】
【絶対裏がある。この番組の審査基準はかなり厳しいって聞いてたけど、どうやって青山希が紛れ込んだんだ】
【青山希って腹黒女、うちのりっくがこのバラエティに出るって知って、何が何でも潜り込もうとしたに決まってる】
りっくとは、ファンが橘陸につけた愛称だ。最後の漢字の音読みをもじったもので、さらに彼が七月にデビューしたことから、ファンたちはこのニックネームをつけた。
【りっくは妹を連れてバラエティに出るんだから、青山希なんて目もくれないよ。諦めたほうが身のためだって忠告しとく】
【正直、青山希の顔面偏差値は戦えるレベルだし、前に彼女の作品見たけど、役作りもそこまで悪くなかった。なんでわざわざ邪道に走るかな】
【頭が悪いからでしょ。この業界、顔がいいやつなんて一番掃いて捨てるほどいるし。それに天然モノかどうかも怪しいもんだ】
……
こういった類のコメントが、番組制作チームの投稿の下でほぼ埋め尽くされていた。青山希は数件スクロールしただけで見るのをやめ、リツイートボタンを押すとソーシャルメディアを閉じた。
橘詩音は今や十八線、つまり売れない駆け出しの女優に過ぎないのに、ファンのコメントは三言目には彼女のことばかり。一目でサクラを雇ったマーケティングだとわかる。
橘家の橘詩音への偏愛は、前世で青山希は嫌というほど見てきた。橘エンターテインメントがこのような動きをしても不思議ではない。
むしろ、彼女のアンチファンたちの罵詈雑言は、どれもこれも新鮮味がまるでない。アンチファンの罵りに時間を浪費する気にもなれない。炎上するのも人気の一つだ。彼女が応じる必要はない。実力で黙らせてやることが、最高の反撃になる。
このバラエティ番組は生配信形式で行われ、事前のリハーサルはない。番組制作チーム以外、ゲストが何に遭遇するか誰も予測できないため、ゲストの素顔がかなりリアルに反映される番組と言える。
青山希は前世の記憶を頼りに、持っていくものをまとめ、二日間ゆっくりと休んだ。
番組放送開始当日、彼女は早起きして身支度を整え、番組収録地へ向かう飛行機に乗り込んだ。
番組制作チームが選んだのは、山紫水明の美しい村だった。ここの人々は素朴で、都会の喧騒から離れている。ゲストたちはここでしばらく共同生活を送り、番組制作チームが設定した様々なミッションをこなさなければならない。
最も早く、最も見事にミッションをクリアしたゲストには、スポンサーから豪華な賞品が贈られる。
青山希が飛行機を降りると、空港で待機している人がいた。生配信はこの時から始まっていた。
スタッフが最初に合流したのは青山希だった。彼女がターミナルビルから出てくると、その姿は瞬く間に人々の目を引いた。
シンプルな白いシャツに、タイトなジーンズを合わせ、その脚をより一層まっすぐで長く見せている。その上にブラウンのトレンチコートを無造作に羽織り、自由で洒脱な雰囲気を醸し出していた。
青山希は化粧をしておらず、すっぴんでカメラの前に現れた。配信ルームのコメントが猛烈な勢いで流れ始めた。
【なんで最初に出てくるのが青山希なんだよ、マジで一瞬たりとも見たくない】
【でも正直、青山希のこの顔面偏差値はマジで強いな。服のセンスも悪くなさそうだし、演技にもっと力入れれば、前途は絶対明るいのに】
【あああ、青山希のすっぴん、こんなに綺麗だったんだ。今まで気づかなかった。この顔だけでファンになる】
【顔が綺麗だからって何なの。性格がダメなら、天女みたいに美しくても吐き気がする】
配信ルームの人数は増え続けていた。ファンたちだけでなく、今回のバラエティに参加するゲストたちも、特に橘家の人々は、生配信の動向に注目していた。
橘硯と橘陸はカメラに映る青山希を見て、確かに息を呑んだ。
以前は同じ屋根の下で暮らし、毎日顔を合わせていたため、彼女の容姿にそれほど何も感じていなかったし、彼女の出演作に目を向けることもなかった。今、カメラの中でこれほど洒脱な彼女の姿を見て、少々意外に思った。
青山希は番組制作チームに続いて車に乗り込んだ。その後カメラは切り替わり、番組制作チームは続々と他のゲストたちとも合流し、一行は共に村へと向かった。
ゲストたちは次々とターミナルビルから出てきた。二番目に到着したのは、最近人気のガールズグループのダンスボーカル、桐谷紫帆。次いで、人気の若手女優、望月美緒と、第一線で活躍する俳優、上杉要だった。
桐谷紫帆は黒のジーンズに、トップスは白のインナー、その上にレザージャケットを羽織ったレトロスタイル。
望月美緒は白いロングワンピースに、トレンチコートをシンプルに羽織った、高嶺の花路線だ。
上杉要はスーツのセットアップ姿で、際立ったオーラを放っている。車に乗ると、まず三人に一人ずつ挨拶してから席に着いた。
三人も笑顔で応え、互いに挨拶を交わす。桐谷紫帆は気さくに青山希と雑談を始め、上杉要も微笑みながら二人を見ていた。
ただ望月美緒だけは、簡単な返事をした後すぐに顔をそむけ、高慢な様子を見せた。どうやら青山希をあまり好いていないようだが、その態度はあからさまではなかった。
すぐにまたゲストがターミナルビルから出てきて、番組スタッフに連れられて車にやってきた。
青山希が顔を上げると、橘陸が車のドアのところに立ち、車外に向かって手を差し伸べ、溺愛するような表情を浮かべているのが見えた。続いて橘詩音が彼の手を取って車に乗り込んできた。
二人は同時に彼女に気づき、三人の視線が交錯したが、青山希の視線は一秒留まっただけですぐに逸らされた。
コメントがまた猛烈な勢いで流れ始めた。
【うわ、りっく、妹に甘すぎ。彼の眼差しに気づいたの私だけ?】
【詩音ちゃんとりっく、さすが兄妹。登場しただけで他のゲストを圧倒してる。この画、最高すぎる】
【待って、青山希のあの目つき何? 羨望、嫉妬、憎悪?】
【そうに違いない。りっくは今回妹を連れて参加だから、青山希もちょっかい出しにくくなったね、ハハハハハ】
【詩音ちゃんの雰囲気、りっくと並ぶと本当にお似合い。もし兄妹じゃなかったら、このカップル推してたのに】
橘詩音と橘陸は今日、やけに仰々しい格好をしていた。普段着とは全く合わず、あとは二人にレッドカーペットを敷いてやるだけといったところだ。
青山希はコメントの状況を知らなかったが、ただ心の中で笑っていた。橘詩音のような頭の足りない女だからこそ、ハイヒールなんて履いてくるのだ。後で山登りがあるのに、泣きを見るのは彼女自身だ。
望月美緒は二人が車に乗ってくるのを見ると、すぐに橘詩音に自分の隣に座るよう声をかけたが、その目は橘陸に釘付けになっていた。
青山希はそれでようやく理解した。なるほど、この清純な美少女が橘詩音に親しげなのは、そういう魂胆だったのかと。
桐谷紫帆と上杉要も同様に二人に挨拶をしたが、それは簡単な世間話に過ぎず、一見してあまり親しくないことがわかった。
青山希は二人を相手にするのも面倒だったが、礼儀として、ぎこちなく口角を上げて微笑んでみせた。それが挨拶代わりだ。
目の鋭い視聴者はすぐさま彼女の微細な表情を捉え、スクリーンショットを撮って分析し始めた。
【青山希のこの表情は何、堪えきれなくなったのか、それとも顔面麻痺か】
【青山希のこの状態、もしかして整形の後遺症?】
【また何か企んでるに違いない。りっく、絶対彼女を相手にするなよ。こういう腹黒女が一番嫌い】
【この顔文字いいな、保存した】
