第61章 争奪

トイレにカメラはない。だから今の橘詩音の表情は凄まじく、歯を食いしばり、外で見せる清純派の姿とは全くの別人だった。

あの青山希、忌々しい。どこに行ってもこの女が邪魔をする。

青山希は少しは自分の身の程をわきまえることができないのか。なぜいつも自分に逆らうのだろう?

橘詩音は憎しみのあまり目が赤く充血し、拳を固く握りしめ、怒りで全身が震えているかのようだった。今すぐにでも飛び出して青山希を二、三発殴ってやりたい衝動に駆られた。

こんな結果になるのなら、いっそ村で農作業でもしていた方がマシだった。

どうせ農作業は自分でやる必要はなく、兄たちが全部やってくれる。それに比べて今はどうだ。青山...

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