第72章 恐れる

今この瞬間、橘陸の胸に顔をうずめて泣いている彼女の感情は、おそらく本物なのだろう。橘詩音は確かに怯えていた。

青山希が橘家の実の娘として探し出されたその瞬間から、橘詩音の心は不安と恐怖で満ち溢れていた。

彼女は他の養子として迎えられた少女たちとは違う。橘詩音には元々家があり、物心がついてから橘家に引き取られたのだ。

だからこそ、かつての家と橘家の贅沢な暮らしは鮮やかな対比をなし、橘詩音は死んでも平民階級には戻りたくなかった。一生お嬢様でいたいのだ。そして、青山希はその道を塞ぐ、永遠に避けては通れない障害だった。

だから彼女は、陰で絶えず呪いをかけていた。橘詩音は、なぜ青山希が長年無事に...

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