第1章

生家の庭に立ち、私はふと、あの古井戸のことを思い出していた。

それは目と鼻の先にあり、分厚い木蓋で口を塞がれているが、その姿ははっきりと覚えている——上は小さく下は大きい、逆さにした瓢箪のような形をしていた。

幼い頃、私はいつも井戸に小石を投げ入れては、それらが暗闇の中をごとん、ごとんと落ちていく音を聞くのが好きだった。

五歳の夏までは。

その日の午後、私は井戸の縁に腹ばいになって、自分が一体いくつの石を投げ入れたのか数えようと中を覗き込んでいた。

陽光が斜めに井戸の中へと差し込み、水面がキラキラと輝いていた。

突然、水底から蒼白い顔が浮かび上がり、私を睨みつけ、口の端を不気味に吊り上げた。私は悲鳴を上げて、後ろに尻餅をついた。

その日から、悪夢が始まった。

毎晩、私はあの女の夢を見る。

赤い着物を着た女が生家の木の廊下の突き当たりからゆっくりと歩いてくる。長い髪が顔の半分以上を覆っているが、その下の真っ白な肌と血のように赤い唇は見えた。

女が一歩、また一歩と迫ってくる。私は必死に逃げる。いくつもの部屋を駆け抜けるが、どうやって逃げても、彼女はいつも私の背後にいるのだ。

最も恐ろしいのは、この夢を見るたび、翌日には必ず病気になることだった。

たいていは風邪で、時には熱を出し、ひどい時には病院に行かなければならないほどだった。

五歳の時から今まで、丸十六年。この夢はまるで私の人生の一部であるかのように、決して消え去ることはなかった。

卒業論文が遠野の民俗に関わるものでなかったなら、二度とこの場所に戻ってくることなどなかっただろう。

「秋子さん、こんなところでぼうっとしてどうしたの?」

はっと我に返ると、水色のワンピースを着た女の子が目の前に立っていた。

私より一、二歳年下に見え、丸い顔には甘い笑みが浮かんでいる。

「あなたは?」

私は訝しげに尋ねた。

「彩也香っていいます。親戚のところに来てるんです」

彼女の声は鈴のように涼やかだった。

「秋子お姉さんですよね? お祖母様から、卒論のために戻ってくると伺っていました」

私は頷いたが、心の中では少し奇妙に感じていた。

祖母から親戚が来るとは、一度も聞いたことがなかったからだ。

「顔色が優れないみたいだけど、また悪夢でも見たの?」

彩也香は心配そうに問いかけ、その輝く瞳には憂いの光が揺れていた。

私は呆然とした。

「どうして私が悪夢を見るって知ってるの?」

彩也香はぱちりと瞬きをし、さらに甘く微笑んだ。

「だって昨晩、お部屋でうわ言を言ったり、泣いたりしているのが聞こえたから。お祖母様が、あなたは小さい頃からそうで、体が弱いって言ってたわ」

その言葉を聞いて、私の心に温かいものが込み上げてきた。

大学では、他の同級生たちは皆インターンに出かけているのに、私だけが頻繁に病気になるせいで単位が足りず、補習のために残らなければならなかった。

孤独はすでに私の日常となっており、こんな風に心配してくれる人など、もう久しくいなかった。

「心配してくれてありがとう」

私は心から言った。

「確かに小さい頃から病弱で、遺伝なのかもしれない」

「遺伝とは限らないわよ」

彩也香はミステリアスに瞬きした。

「時々ね、私たちが見るものが体を弱らせることがあるの。例えば……」

彼女は古井戸の方を指差した。

「あの井戸の中のもの、とかね」

私は全身が震えた。

「古井戸のことを知ってるの?」

彩也香は頷き、表情を真剣なものに変えた。

「もちろん知ってるわ。この生家ではたくさんの物語があったの。私は全部知ってる」

彼女の言葉に少し違和感を覚えたが、直接問い詰めることはしなかった。

「でも心配しなくていいわよ、秋子お姉さん」

彼女はポケットから精巧な鈴を取り出した。

鈴は銀白色で、複雑な花模様が彫られており、陽光の下でキラキラと輝いている。

「これは家に伝わるお守りの鈴なの」

彩也香はそれを私に手渡した。

「悪夢や良くないものを追い払ってくれる。これを着けていれば、もう悪夢は見なくなるわ」

鈴を受け取ると、ずしりと重く、そして微かに清らかな香りが漂ってくるのを感じた。

「こんなに高価なもの、受け取れないわ」

「絶対に受け取って!」

彩也香の口調が突然切迫したものになった。

「これはあなたのために特別に用意したものなんだから。それに……」

彼女は一度言葉を切り、その瞳に私が読み取れない感情を過らせた。

「私たち、友達でしょ?」

友達。

その言葉が私の胸を温かくした。私は鈴を首にかけると、途端に体が軽くなったような感覚に襲われた。まるで肩から何か重い荷が下りたかのようだ。

「ありがとう、彩也香さん」

私は心から言った。

「あなたみたいな友達ができて、嬉しい」

彩也香はさらに輝くような笑顔を見せた。

「じゃあこれからは親友ね! 私もこれからはお姉ちゃんって呼んでいい?」

私は頷いて承諾した。

「秋子お姉ちゃん、じゃあ私、もう行くね!」

彩也香はとても嬉しそうに、ぴょんぴょんと跳ねるようにして生家の玄関へと走っていった。庭に一人残された私の手には、あの神秘的なお守りの鈴が握られている。

夕陽が西に沈み、古い生家は夕闇の中でひときわ静謐に佇んでいた。

私は彩也香が消えていった方角を見つめ、心は温かさと困惑の両方で満たされていた。

だが、どうであれ、今夜こそはお守りの鈴を着けて安心して眠ることができる。

もしかしたら、私を十六年間も苦しめてきたあの悪夢は、本当にこれで終わりになるのかもしれない。

私は胸元の鈴をそっと撫で、生家へと向き直った。

背後では、古井戸が夕闇の中、何か大切な秘密を守るかのように静かに佇んでいた。

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